抄録
抗血小板療法は諸刃の剣である.
疫学研究やアウトカム評価の結果で心血管イベント抑制というメリットが大出血というデメリットを上回れば,ハイリスク患者に対する抗血小板薬の社会的意義を理解する事は難しくない.
しかしながら,解熱や鎮痛といった効果が分かりやすい薬剤,あるいは糖尿病,高血圧症,脂質異常症等のサロゲート・マーカーが存在する疾患とは異なり,二次予防(再発予防)あるいは一次予防(高リスク患者の血栓症予防)における抗血小板薬の臨床的効果は見えにくい.更に,不幸にして大出血という合併症を経験した患者やその家族にとっては,そのデメリットが強く印象づけられる.
いわゆるドラッグ・ラグの問題,あるいは副作用被害救済の問題等を勘案すると,わが国の独自性のみを強調するのではなく,遺伝的因子や環境的因子を断面的かつ縦断的に評価しつつ国際化を進めることが急務である.また,バイアスや利益相反に配慮しつつ産学官が連携し,診断と治療のガイドライン作成やバイオマーカーの開発等,抗血小板療法の社会的意義を高める活動も必要である.
本稿ではアスピリンを基本とする抗血小板療法の過去,現在,未来を俯瞰し,レギュラトリー・サイエンスの重要性とアカデミアの果たすべき役割について検討する.