2018 年 29 巻 3 号 p. 262-272
要約:後天性血友病A(AHA)は,凝固第VIII 因子(FVIII)に対する自己抗体(インヒビター)が産生されることにより発症する後天性凝固異常症で,近年本邦での報告数が増加しているため,疾患啓発の観点からも注目されている.自己免疫性疾患や悪性腫瘍を背景に発症することがあり,基礎疾患の検索は重要である.出血傾向の既往のない高齢者が突然に広範な皮下出血や筋肉内出血を呈し,APTT 延長のみを認めた際には,本症を疑い精査を進めるべきである.AHA はFVIII 活性の著減とFVIII インヒビター検出により診断できる.診断後直ちにステロイド,シクロフォスファミドやリツキシマブなどによる免疫抑制療法を実施すべきであるが,本邦においてAHA に保険適用の免疫抑制剤はプレドニゾロンのみで治療上の制限が多い.免疫抑制療法により70~80%が完全寛解に至るが,寛解後に再燃することもある.重篤な出血症状を呈する際は,バイパス製剤による高額な止血治療が必要となる.死亡率はおおむね25%前後で,死因は出血死と免疫抑制療法に起因した感染症である.2015 年に本症は指定難病に認定され,2017 年に改訂版診療ガイドラインが刊行された.