日本血栓止血学会誌
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29 巻, 3 号
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特集 自己抗体による出血・血栓:基礎と臨床の現状
  • 桑名 正隆
    2018 年 29 巻 3 号 p. 243-250
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー

    要約:自己免疫疾患の多くでは,病原性を有する自己抗体が病態を直接誘導する.私たちはこれまでGPIIb/IIIa,β2 グリコプロテインI を認識するCD4+T細胞の詳細な解析を行い,これら自己反応性T 細胞は通常のプロセッシングで生成されない自己抗原由来の潜在性ペプチドを認識することを明らかにした.また,患者のみならず健常人の多くのT 細胞レパトワに自己反応性T細胞が存在するが,活性化フェノタイプは患者でのみ検出された.この事実は自己抗体産生が自己反応性CD4+T 細胞の存在により規定されるのではなく,その活性化を誘導する自己抗体由来の潜在性ペプチドの提示により規定されることを示す.したがって,何らかの環境要因により自己抗原の潜在性ペプチドが抗原提示細胞により提示され,さらに遺伝的素因,制御性T 細胞など免疫調節機構の破綻が加わることで自己免疫応答が誘導される.

  • 一瀬 白帝
    2018 年 29 巻 3 号 p. 251-261
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー

    要約:わが国では,自己免疫性凝固因子欠乏症の診断症例数が増加する傾向にある.自己抗体は,中和抗体(いわゆるインヒビター)か非中和抗体(主に除去亢進)あるいは両者の混合型であり,凝固活性阻害や凝固因子著減の結果,出血に至る.自己抗体が生じる原因は不明であるが,自己免疫疾患,悪性腫瘍などの基礎疾患を伴う症例が半数であり,免疫寛容/制御機構の破綻が推定される.残りの半数は特発性であり,高齢者に多いので加齢も危険因子であろう.出血重症度は,標的の凝固因子,症例によって,無症状から出血死までと大きく異なる.各凝固因子を補充するのが止血療法の原則であるが,バイパス製剤が有効な疾患もある.抗体根絶療法として免疫抑制薬を投与するが,慢性化,寛解後再燃する症例も多く,最適の方法は未確立である.厚労省研究班による調査活動の結果,4 種類の自己免疫性凝固因子欠乏症が指定難病288 として公的医療費助成の対象疾患となっている.

  • 小川 孔幸
    2018 年 29 巻 3 号 p. 262-272
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー

    要約:後天性血友病A(AHA)は,凝固第VIII 因子(FVIII)に対する自己抗体(インヒビター)が産生されることにより発症する後天性凝固異常症で,近年本邦での報告数が増加しているため,疾患啓発の観点からも注目されている.自己免疫性疾患や悪性腫瘍を背景に発症することがあり,基礎疾患の検索は重要である.出血傾向の既往のない高齢者が突然に広範な皮下出血や筋肉内出血を呈し,APTT 延長のみを認めた際には,本症を疑い精査を進めるべきである.AHA はFVIII 活性の著減とFVIII インヒビター検出により診断できる.診断後直ちにステロイド,シクロフォスファミドやリツキシマブなどによる免疫抑制療法を実施すべきであるが,本邦においてAHA に保険適用の免疫抑制剤はプレドニゾロンのみで治療上の制限が多い.免疫抑制療法により70~80%が完全寛解に至るが,寛解後に再燃することもある.重篤な出血症状を呈する際は,バイパス製剤による高額な止血治療が必要となる.死亡率はおおむね25%前後で,死因は出血死と免疫抑制療法に起因した感染症である.2015 年に本症は指定難病に認定され,2017 年に改訂版診療ガイドラインが刊行された.

  • 鈴木 伸明
    2018 年 29 巻 3 号 p. 273-280
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー

    要約:von Willebrand Factor (VWF)インヒビターによるAcquired von Willebrand Syndrome(AvWS)は1968 年にSLE に合併した患者が初めて報告された.その後,ちょうど50年が経過するが,基礎疾患が非常に幅広く存在する一方で,臨床的にVWF インヒビターの存在が疑われるものの,リストセチンコファクター活性(RCo)ベースのベセスダ法やELISA などの手法でインヒビターが検出されない症例が多く存在し,診断基準も十分に整備されておらず,病態理解も十分に進んでいない.そのため,診断においては鼻出血や紫斑などの後天的な出血症状を呈する症例に対して,VWF 関連検査を行いながら,基礎疾患や家族歴を考慮し,総合的に臨床診断されているというのが実情である.治療法に関しては必ずしも基礎疾患の治療が,AvWS の改善につながるとは限らず,軽症例に対してはトラネキサム酸(トランサミン®)を使用しつつ,一定以上の出血イベントにはVWF 含有血液凝固第VIII 因子製剤(コンファクト®)やデスモプレシン酢酸塩水和物(デスモプレシン注®)を短縮した半減期に注意しながら使用する必要があり,デリケートかつ継続的な止血管理が必要となる.

  • 山之内 純
    2018 年 29 巻 3 号 p. 281-287
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー

    要約:特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は,後天性の血小板減少症で血小板数が10 万/μL以下と定義され,血小板に対する免疫的な機序が原因とされる.その詳細は①血小板特異的な自己抗体のためであり,②巨核球の成熟障害,血小板産生障害のためであり,③ T 細胞を介した血小板破壊のためであると考えられている.これらの病因と考えられるメカニズムが患者それぞれで複雑にからみあって,血小板減少をきたす.また,今回のテーマが「自己抗体による出血・血栓」であるため,ITP における血小板自己抗体の検出法についてもふれる.血小板自己抗体の主要な標的抗原は血小板膜糖蛋白であるが,ITP 患者それぞれで異なり,認識される抗原によって出血症状に違いがあるとの報告がある.そのため,血小板に結合した血小板自己抗体を解析することは重要である.私たちが利用しているPakAuto(GTI, Brookfield, WI)assay の成績について,primary ITP とsecondary ITP それぞれで紹介する.

  • 前田 琢磨, 宮田 茂樹
    2018 年 29 巻 3 号 p. 288-293
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー

    要約:血小板第4 因子(PF4)と陰性荷電に富むヘパリンによる複合体に対する抗体が,ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)を引き起こす.細菌表面は陰性荷電に富むが,これがPF4 と複合体を形成することで,Marginal zone B cellによるinnate immune response を活性化させ,HIT 抗体に類似したIgG 抗体を誘導することがわかっている.HIT はこのinnate immune response の誤誘導された結果によって発症する.よって,ほぼすべての患者で,細菌感染(歯周病など),組織損傷などを通じて,抗PF4/ヘパリン抗体を産生するB cellが誘導されている.したがって,ヘパリン投与に伴い誘導される抗PF4/ヘパリン抗体産生は,二次応答として起こることとなる.これが,HIT がヘパリン投与開始後5~14 日に好発する理由である.HIT の診断は臨床的診断と血清学的診断を組み合わせて行い,治療はヘパリンの中止のみではなく,速やかな代替抗凝固療法が必須である.

  • 阿部 靖矢, 渥美 達也
    2018 年 29 巻 3 号 p. 294-306
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー

    要約:抗リン脂質抗体症候群(APS)は抗リン脂質抗体(aPL)と呼ばれる自己抗体が産生され,動脈血栓症,静脈血栓症,習慣性流産などを引き起こす自己免疫疾患である.APS 国際分類基準の2006 年 改訂Sapporo 基準では,aPLとして抗カルジオリピン抗体,抗β2 グリコプロテインI 抗体,ループスアンチコアグラントが含まれるが,ホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体も高い血栓症リスクを有することから注目すべきaPL の一つである.APS の病態生理はいまだ不明な点は多いが,aPL によるリン脂質結合蛋白の機能低下や凝固・線溶系に及ぼす影響以外にも細胞内シグナル伝達の変化や細胞膜受容体,補体活性化,ヒト白血球抗原 class II の関与や,最近では活性化好中球と接着分子との関連も明らかとなってきた.APS の臨床症状に対しては抗血栓療法が主体となるが,血栓症を繰り返す患者も多く,近年再度注目される免疫調整薬や,上述の病態形成機序に即した新規薬剤の開発に期待が高まっている.

原著
  • 長尾 梓, 天野 景裕, 片山 春奈, 細貝 亮介, 萩原 剛, 鈴木 隆史
    2018 年 29 巻 3 号 p. 307-314
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー

    要約:Fc 融合遺伝子組換え第VIII 因子製剤(rFVIIIFc)は,Fc により制御性T 細胞が増加することで,当該凝固因子に対する抗原性を低下させ,寛容の誘導と促進がなされることが動物モデルで示された.そのため,血友病インヒビター患者における免疫寛容療法(immune tolerance induction: ITI)の有効性が期待されている.今回,rFVIIIFc を用いてITI を施行した血友病A インヒビター3 症例を経験した.患者背景は重症型2 例,軽症型1 例で,プライマリーITI1 例ならびにレスキューITI2 例を施行した.プライマリーITI 症例は開始77 週で,またレスキューITI 症例のうち1 例は開始61 週(rFVIIIFc 変更後9 週)でインヒビターは消失し,海外および国内から報告のある標準製剤でのITI 成功率とほぼ同様であった.今回,rFVIIIFc によるITI はプライマリーおよびレスキューITI に有用な可能性が示唆された.

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