2019 年 30 巻 3 号 p. 505-511
要約:2 型糖尿病に伴う種々の病態の中でも,インスリン抵抗性は動脈硬化症の強力なリスク因子である.血管内皮細胞,血管平滑筋,および単球・マクロファージにはインスリン受容体とその下流のインスリンシグナル関連分子が構成的に発現しており,インスリンシグナルの減弱は各血管構成細胞において動脈硬化促進的に作用する報告が多数である.血管内皮細胞においては,インスリンシグナルの活性化はendothelial Nitric Oxide Synthase(eNOS)依存性のNO 産生を促進し,Vascular Cell Adhesion Molecule(VCAM)-1 の発現を抑制する.転写因子FoxO はインスリンなどの増殖因子によりAkt が活性化されると,核内でリン酸化されて核外へ移行し,転写因子として不活性型となる.血管内皮細胞特異的にFoxO を欠損させたマウスではLDL受容体欠損マウスにおける動脈硬化の進展が極めて顕著に抑制され,FoxO は血管内皮細胞においてinducible NOS(iNOS)発現,NF-κB活性,酸化ストレス産生,細胞老化およびアポトーシスを正に制御する動脈硬化の「鍵因子」であることが示されている.