2021 年 32 巻 6 号 p. 687-694
歯周病は歯周病原細菌による感染症であり,慢性炎症による歯周組織の破壊は歯の喪失を引き起こす.歯周組織に遊走する好中球は,歯周病原細菌の感染に対してneutrophil extracellular traps(NETs)を産生する.非炎症状態の歯周組織においてNETsは感染防御に作用し恒常性を維持するが,デンタルプラークの成熟に伴い歯周病原細菌が増加すると,好中球は遷延的にNETsを産生し歯周組織は慢性炎症に陥る.また,歯周病原細菌はDNaseやプロテアーゼを産生しNETsを不活化することで,NETsによる殺菌を回避する.歯周病原細菌Porphyromonas gingivalisが産生するプロテアーゼのジンジパインは,多彩な病原性を発揮し歯周病のみならず関節リウマチやアルツハイマー型認知症など全身疾患の病態増悪に関わる.本稿は歯周病と全身疾患におけるNETsの役割について概説する.