2022 年 33 巻 5 号 p. 551-562
播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation: DIC)は,主に敗血症や造血器疾患に合併する.代表的な敗血症に合併するDICの病態は,免疫細胞から放出されるヒストンやHMGB-1(High mobility group box-1 protein)などの核内蛋白が重要性な役割を果たし,線溶抑制型で臓器不全を呈する.一方,造血器腫瘍(主に白血病)に合併するDICは,線溶亢進型で主に出血症状を呈する.白血病細胞は,組織因子やcancer procoagulantを発現・放出し,外因系凝固機序を促進させ,凝固活性化する.特に,急性前骨髄性白血病細胞ではannexin IIの過剰発現により,プラスミンの生成を亢進し,線溶活性化する.DICの診断は,鑑別疾患の除外[血栓性微小血管障害症(thrombotic microangiopathy: TMAなど)]を行い,診断基準(旧厚労省 もしくは,日本血栓止血学会)に沿って行う.造血器腫瘍に合併するDICの治療では,遺伝子組み換えトロンボモジュリン製剤とAT製剤の有効性と安全性が示されている.最近,HMGB-1が,造血器腫瘍に合併するDICの病態に関与する可能性が示されている.また,残された課題であるDICに合併する脳出血についても文献的考察を行う.
播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation: DIC)の凝固異常は様々な基礎疾患から生じるが,敗血症,外傷,造血器腫瘍,妊娠,悪性腫瘍などが,その代表的な原因である1).2016年に丸藤らは,DICの病態について,Key wordである炎症と凝固のクロストークを交えて概説している.即ち,①生体侵襲により生じた炎症性サイトカインは,②血管内皮細胞障害を惹起し,③トロンビンの活性化,④PAR-1(protease activated receptor 1)の活性化を引き起こし,⑤TF(tissue factor),PAI-1(plasminogen activator inhibitor-1),HMGB-1(high mobility group box-1 protein),NETs(neutrophil extracellular traps)を活性化させる2).さらに,TM(thrombomodulin),AT(antithrombin),protein Cの低下をきたすことで,凝固亢進,線溶抑制をひきおこす2).⑥炎症と凝固のクロストークにより,⑦血栓形成,DICが進展し,⑧多臓器不全を呈する2).
近年,臓器/疾患別のDICの病態も明らかになってきている.敗血症,造血器疾患(主に白血病),急性胆管炎,急性膵炎,消化管穿孔にともなう腹膜炎,固形腫瘍などに合併するDICも注目されてきている3–5).造血器腫瘍に合併するDICの病態について,代表的な敗血症に合併するDICとも,対比しながら,述べていきたい.
DICのうち代表的なものである敗血症性に合併するDICの病態を提示する(図1A).生体侵襲により生じた①LPS(lipopolysaccharide)などのPAMPs(pathogen-associated molecular pattern molecules),②ヒストン,HMGB-1などのDAMPs(damage associated molecular patterns)などの炎症性サイトカインは,③内皮細胞障害を惹起する.この状態では,④TMのダウンレギュレーション,失活化により,TMの抗凝固能が低下し,⑤トロンビンが増加し,⑥血栓形成,さらにDICへ進展する(図1A).敗血症に合併する臓器障害であるが,2013年の救急学会の報告で,重症敗血症では,およそ8割で多臓器障害を合併していることが示されている6).臓器障害の合併は,死に直結する可能性が高いことも示されている6).
敗血症に合併するDICの病態.(現場で役立つ!DIC治療エッセンス.Kawano N, 2018: 3(1); 3より引用)
造血器疾患に合併するDICの病態.(現場で役立つ!DIC治療エッセンス.Kawano N, 2018: 3(1); 3より引用)
一方,造血器腫瘍に合併するDICの病態(主に白血病)を提示する(図1B).腫瘍細胞は,TFやcancer procoagulantを産生して,凝固を亢進させ,annexin IIやウロキナーゼ受容体を発現させ,線溶亢進を促すことが,報告されている.特に,代表疾患である急性前骨髄性白血病(acute promyelocytic leukemia: APL)において,annexin IIが,DICの病態に,重要な役割を果たすことが示されている.臨床的には,線溶亢進型で主に出血症状を呈する7).
造血器腫瘍に合併するDICの特徴であるが,2003年,中川らは,造血器腫瘍の約10~30%にDICが合併し,APLではDIC合併が70%であることを報告した8).2007年,内海らは,急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia: AML)におけるDICの合併は,血球形態学を基盤にしたFAB(French-American-British)分類で差違があり,M1(急性骨髄芽球性白血病)やM5(急性単球性白血病)に多い傾向があることを示した.同時に,DIC合併のAMLは,予後不良であることを示した9).2010年にFranchiniらは,AML患者(13~18%)は,急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia: ALL)患者(3~13%)より,DIC合併率が高いことを報告している10).さらに,寛解導入療法の際に,DICの増悪を認めることを報告している10).
2022年に,造血器腫瘍に合併するDICに対する遺伝子組み換えトロンボモジュリン製剤(recombinant human soluble thrombomodulin: rhTM)治療の市販後調査全例調査が,関らによって報告された11).644例の急性白血病に絞って,FAB分類による急性白血病の臨床的特徴とrhTMの効果について,報告された.関らは,この多数例の網羅的解析により,FAB分類では,M3,M2,M4,M1,M5,L2,L1が,DICの合併頻度が高く,M3,M7が治療前の出血症状が多い事,さらに,M3とPh+ALL(Philadelphia chromosome-positive ALL)においては,線溶亢進所見を呈していることを示した11).
2020年にIJHの総説で,池添らが,造血器腫瘍に合併するDICの病態をreviewし,造血器腫瘍に合併するDICにおいて,感染症DICと同様,HMGB-1,histoneなどのDAMPsの関与があることを示した12).
本邦では,感染症DICに対しては2006年の急性期DICスコア13)が,造血器腫瘍に合併するDIC対しては1983年の旧厚生省DICスコアが使用されることが多い14).
海外では,2001年のISTH(International Society on Thrombosis and Haemostasis Congress)のDICスコアが使用されている15).
2014年/2017年に血栓止血学会より,あらたなDIC基準が提唱されている16, 17).
その背景として,ISTH基準は感度が低い.急性期基準は,全ての基礎疾患に対して適応ができない.旧厚生省基準では,感染症に対する感度が低いことが,問題とされ,改訂が課題となっていた.
2009年血栓止血学会より,線溶能によるDICの病型分類が提唱され,すべてのDICの病態において過凝固状態が存在すること,さらに線溶系の活性化の程度により,臓器障害,出血症状に差がみられることが提示された.その代表的基礎疾患も,敗血症,固形癌,APL,大動脈瘤と分類された.TAT(thrombin-antithrombin III complex),PIC(plasmin-2 plasmin inhibitor complex)などの分子markerの重要性が提唱された(図2A)16).血栓止血学会DIC診断基準では,基本型,造血障害型,感染症型と分類されている.感染症型でfibrinogenの項目がないこと,さらに2009年の提唱も受け,TAT,SF(soluble fibrin),F1+2(prothrombin fragment F1+2)の分子マーカー導入の点が特徴とされている.今後,DIC診断の感度,特異度に関して,実臨床での検討,応用もすすめられると考えられる(図2B)17).
2009年血栓止血学会から,線溶能によるDICの病型分類を提唱.(日本血栓止血学会誌 20: 77–113, 2009より引用)
日本血栓止血学会からのDIC診断基準2017年版.(日本血栓止血学会誌.28: 369–392, 2017より引用)
DICの鑑別となる疾患群であるが,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP)/血栓性微小血管障害症(thrombotic microangiopathy: TMA),非典型溶血性尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome: aHUS)などが,鑑別となる.臨床的に,時にoverlapすることが報告され,診断に苦慮することもある.いずれの疾患も,血管内皮細胞障害を起点として凝固障害/血栓形成をきたすものの,近年,分子markerの検索と病態の解明により,その診断と治療に大きな相違が生じている18).
実際の臨床診断の際には,分子マーカーを併用し,学会で示された診断基準が広く使用されている18).
TTPにおいては,ADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)活性の低下,ADAMTS13抗体の存在に基づいた診断,そして,血漿交換療法とRituximab治療がなされる19, 20).aHUSにおいては,補体の活性化のマーカー(sC5b-9)の上昇,そして,抗C5抗体医薬による治療がなされる21, 22).
造血器腫瘍に合併するDIC治療について,代表的な敗血症に合併するDICとも,対比し,述べていきたい.
敗血症に合併するDIC治療に関して,2016年のGandoらのNature reviewで推奨されているのは,従来どおり,転帰の改善のために,基礎疾患,基礎疾患に併発する臓器障害,DICに対する抗凝固療法を同時に治療する指針である2).
同様に,造血器腫瘍に合併するDICにおいても,基礎疾患の治療(化学療法,もしくは,分子標的療法,他の治療)が優先されるべきことは言うまでもない.さらに補充療法と抗凝固療法を施行することで,臨床症状の改善,出血リスクの軽減,臓器障害の改善がなされ,基礎疾患の治療に焦点をあてることが可能になるため,DICの制御は重要である12).さらに,2020年に我々は,DIC治療にあたり,感染症合併DICにおいても,造血器疾患に合併するDICにおいても,臓器障害を有する群では[感染症に合併するDIC群;SOFA(Sequential Organ Failure Assessment)高値,造血器疾患に合併するDIC群;T.Bil高値,Cr高値],DIC離脱率,生存率ともに低くなることを示した23)DIC治療にあたり,臨床症状の改善,凝固パラメーターの改善(fibrinogen/fibrin degradation products: FDPもしくはD-dimer)をメルクマールとしながら,最初の治療目標としてDIC離脱を指標とするとよいかもしれない(図3).
当院におけるDIC治療に対する遺伝子組換えトロンボモジュリンの効果と安全性(―感染症62例と造血器疾患30例の分析―)
(Kawano N, et al. Intern Med. 2014; 53: 205–213).(Kawano N, et al. J Clin Exp hematopathol 2011; 51: 101–107.)
抗凝固療法の土台となる支持療法である輸血療法も,同様に重要であり,併せて施行する必要がある24, 25).DIC離脱までは,DICの出血性合併症のriskの軽減のために,血小板数,FBG(Fibrinogen)を含む凝固因子の検査を頻回に行う24, 25).DIC合併時には,血小板数>30,000~50,000/mm3と高値に保つように,適宜,濃厚血小板輸血を行う24, 25).また,FBG>150 mg/dLを保つように,新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma: FFP)の投与を行う24, 25).
現在,日本で使用可能な抗凝固療法としては,低分子ヘパリン類などのヘパリン類,合成蛋白分解酵素阻害薬,遺伝子組み換えトロンボモジュリン製剤(rhTM),アンチトロンビン製剤(AT)が存在する24).それぞれの抗凝固薬の優劣やどのタイプのDICにどのタイプの抗凝固療法を使用する形が望ましいか,それらを示唆する質の高い臨床試験は存在しない24).抗凝固療法を施行するにあたり,DICの診断基準を用いて,DICの評価を行い,副作用の回避のためにも,活動性のある出血の有無,出血のリスクを評価し,抗凝固療法を選択する24).
造血器腫瘍に合併するDICに対する抗凝固療法に対して,前向き試験は,斎藤らの報告したphase 3 studyのみであるため,その主たるData baseは,Real world dataを中心とした後方視的研究が中心となる.これまでの主要なrhTMの市販後調査(表1A)と後方視的研究(表1B)をTableとして示す11, 26–31, 48, 51, 52).ここでは,日常臨床でよく使用されているrhTM,ATについて概説する.
市販後調査 | 論文 | 基礎疾患,解析症例 | 論文趣旨 | DIC離脱率 | 生存率(%) | 全副作用,出血性副作用 |
---|---|---|---|---|---|---|
三室(2013) | (53) | 感染症:n=2,516 造血器:n=1,032 固形癌:n=88 |
リコモジュリンの安全性,有効性 | 感:58.3% 造:80.2% 固:23.7% |
感:64.1% 造:70.7% 固:42.0% |
出(感):2.6% 出(造):2.4% 出(固):4.5% |
朝倉(2014) | (55) | 造血器腫瘍:n=1,032 | 造血器疾患に合併するDICに対するrhTMの安全性,有効性 | 55.9% | 70.7% | 全:6.3% 出:4.6% |
松下(2014) | (56) | APL:n=172 | APLに合併するDICに対するrhTMの安全性,有効性 | ― | 86.0% *化学療法開始から30日以内 |
出:3.5% *化学療法開始から30日以内 |
白幡(2014) | (57) | 小児DIC,n=210 | 小児DICにおけるリコモジュリンの安全性,有効性 | 58.5% | 71.6% | 全:5.2%,出:4.8% |
白幡(2014) | (58) | 新生児DIC,n=60 | 新生児DICにおけるリコモジュリンの安全性,有効性 | 47.1% | 76.7% | 全:6.7%,出:6.7% |
小林(2017) | (59) | 婦人科DIC n=117 |
婦人科DICにおけるリコモジュリンの安全性,有効性 | 72.3%(24時間後) 82.4%(48時間後) 90.2%(最終投与翌日) |
― | 出:5.1% |
和田(2020) | (60) | 重症感染症DIC | AT低下の及ぼす影響 | 重症AT低下(50%以下);SADは,いずれのtypeのDICでもみられる.JSTH 2017のDICのcriteriaの感染症型DICで,40.4%,造血障害型で,8.0%,基本型で,26.7%認めた.SADを併発するDIC群は,OSが低い傾向がみられた. | ||
関(2021) | (11) | 造血器腫瘍 N=644 |
急性白血病の病型分類;FAB分類とDIC離脱,転帰の関係について | rhTMによる治療で,ALLでは,AMLより,DIC離脱が高く,とくに,L1とPh+ALLで離脱率が高かった(11).また,L3,Ph+ALL,M3で,生存率が高かった.以上,DICの頻度,出血症状の程度は,FABの病型別に異なるが,rhTMはすべての病型でのDICに対応出来る薬剤であることも,あわせて示した.副作用に関しては,出血性副作用はおおむね2~5%前後であり,重篤な出血性合併症はまれであった. | ||
川杉(2021) | (61) | 感染症;N=2,083 造血器腫瘍;N=1,121 |
感染症DICにおける低Fib血症の意義について | 低Fibrinogen血症(150 mg/dL以下)がは,感染症に合併するDICの10.3%に合併した.さらに,感染症に合併する低Fibrinogen血症群は,生存率が低い傾向がみられた. 一方,造血器疾患に合併する低Fibrinogen血症群は,生存率に有意差はみれなかった. |
||
窓岩(2021) | (62) | N=4,342 感染症;N=193 |
感染症DICにおける日本血栓止血学会;2017のDIC診断基準の有用性について | 感染症DICに対する抗凝固療法(rhTM)後のday 7のJSTH 2017のDIC scoreは,感染症DICの予後予測に有用なtoolである. | ||
河野(2020) | (28) | 感染症;N=1,997 造血器腫瘍;N=819 |
DIC離脱と転帰に影響を及ぼす患者背景,特に臓器障害について | DIC治療にあたり,感染症合併DICにおいても,造血器疾患に合併するDICにおいても,臓器障害を有する群では(感染症に合併するDIC群;SOFA高値,造血器疾患に合併するDIC群:T.Bil高値,Cr高値),DIC離脱率,生存率ともに低くなることを示した. |
単施設後方視的報告 | 論文 | 基礎疾患,解析症例 | 論文趣旨 | DIC離脱率 | 生存率(%) | 全副作用,出血性副作用 |
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池添(2012) | (29) | APL;n=17 (rhTM; n=9),(historical control; n=8) |
APLに合併するDICに対するrhTMの安全性,有効性 | Historical controlと比較して,rhTMの方が離脱率が高い. | ― | rhTMでは,出血の合併症はなかった.Historical controlで,2例で,脳出血あり. |
河野(2013) | (30) | APL;n=10 (rhTM;n=6, SPI;n=4) |
APLに合併するDICに対するrhTMの安全性,有効性 | rhTM;66%(=4/6) SPI;25%(=1/4) |
rhTM;100% SPI;100% |
重篤な出血の合併症はみられなかった. |
河野(2014) | (31) | 造血器腫瘍;n=30 感染症;n=62 |
造血器腫瘍に合併するDICに対するrhTMの安全性,有効性 | 66.7%(造血器腫瘍) 46.8%(感染症) |
72.6%(感染症) 80.0%(造血器腫瘍) |
重篤な出血の合併症はみられなかった. |
竹迫(2015) | (32) | AML;n=47 rhTM(n=14),LMHW(n=33) |
AMLに合併するDIC対するrhTMの安全性,有効性 | ― | rhTMは,LMHWと比較してOSは統計学的に有意差あり. | 重篤な出血の合併症はみられなかった. |
横山(2017) | (33) | 造血器腫瘍:n=33 (AML-n=13,ALL;n=3 APL;n=17) |
造血器腫瘍に合併するDICにおけるrhTMの安全性,有効性 | 56%(AML/ALL) 53%(APL) |
rhTMはacute leukemiaのsurvivalを,出血によるearly deathを抑制することで,改善する. | 脳出血(AML1例,ALL1例,APL一例) 肺出血(APL一例) |
栗田(2019) | (34) | 造血器腫瘍合併DIC(158 episodes) 造血器腫瘍治療中の感染症合併DIC(83 episodes)(rhTMを,149例に投与.) |
造血器腫瘍に合併するDICにおけるrhTMの安全性,有効性 | 造血器腫瘍に合併するDIC(46%) 感染症に合併するDIC(29%) |
造血器腫瘍に合併するDIC;87% 感染症に合併するDIC;53% |
重篤な出血は,みられなかった. |
rhTMは,分子量64,000で,半減期はT1/2α:4時間,T1/2β:20時間である32).
実際のrhTMの使用方法・投与方法は,rhTM;380 U/kg/日×6日間投与する32).投与時間は,約30分前後で点滴投与する32).rhTMのtrough 300~900 ng/mL以上が,有効血中濃度とされ,380 U/kgの容量設定がなされている32).重篤な腎機能障害(eGFR 30 mL/min/1.73 m2以下,もしくは透析症例)の際は,130 U/kgの投与が設定されている32).活動性のある出血,重篤な出血のある際は,投与を,控える32).
1982年に,オクラホマ大学のEsmonにより,TMが発見された34).
1987年に,鹿児島大学丸山らによるヒトトロンボモジュリンの遺伝子の単離,活性部位の同定.
2005年に,名古屋大学斎藤らによるPhase 3のヘパリンとの非劣性試験32).
2008年に,国内承認,使用開始.
2017年に,市販後調査の報告をうけ,再審査(カテゴリー1)の結果通知.
2020年に,Sepsis with coagulopathyを対象としたrhTMのSCARLET試験(米国;phase 3試験)が,報告された35).現在,rhTMは,日本での臨床応用にとどまっているため,今後,人種,国境を越えて,造血器腫瘍に合併するDICに対して,有効であるか,または,安全であるか,明らかにされることが,期待される.
遺伝子組み換えトロンボモジュリン製剤(rhTM)の主たる機序は,①APC(activated protein C)を介して,凝固因子V,VIII因子を抑制し,トロンビンを制御し,血栓形成を抑制する.さらに,②TMレクチン様ドメインを介した抗炎症作用.③TAFIを介して線溶亢進を抑制する.④~⑥の機序も報告されている.
①APCを介した抗炎症作用(サイトカイン産生抑制,ヒストン分解,好中球接着抑制),抗凝固作用(トロンビン生成阻害).
②TMレクチン様ドメインを介した抗炎症作用.LPS(lipopolysaccharide)吸着阻害,HMGB-1分解促進,ヒストン抑制)
③TAFIa(thrombin activatable fibrinolysis inhibitor)を介した抗炎症作用,抗線溶作用.C3a,C5a分解による好中球遊走阻害,ブラジキニン抑制,線溶系亢進の抑制.
④補体系に関して,C3,C5aなどの補体制御37).
⑤rhTMによる血管内皮保護作用38).2009年,Baeらは,rhTMによる間接的なAPCの活性化は,PAR-1を介して,Rac 1の活性化をきたし,NF-κBの作用を制御し,血管内皮細胞保護作用を示すことを明らかにした.上記機序は,rhTM投与により,AT活性の回復する現象を説明する,一つの機序とされている.
⑥その他の作用:APL細胞のAnnexin IIの抑制,NETosis抑制.
斎藤らの前向き試験;phase 3試験32)とReal world dataを中心とした後方視的研究11, 26–31, 48–57)により,rhTMのDICに対する有効性と安全性が示されている.
【前向き試験;phase 3試験】
DIC患者(n=234)(感染症群と造血器腫瘍群を含む)をrhTMとheparin群に振り分ける,multicenter,double-blind,randomized,parallel-group trialである.DIC離脱率は,rhTM群;66.1%,heparin群;49.9%であり,非劣性を証明した32).さらにrhTM群は,出血症状の著しい改善傾向をみとめた32).死亡率は,rhTM群;17.2%,heparin群18.0%(感染症に合併するDIC群),rhTM群;28%,heparin群;34.6%であった.副作用である出血症状に関しても,rhTM群;43.1%,ヘパリン群;56.5%と非劣性を証明した32).
感染症 約2,500例,造血器疾患 約1,000例,固形腫瘍 約80例のrhTMの安全性,有効性が示された.さらに,APL,小児DIC,新生児DIC,婦人科DICについても同様の結果が示された48–54).
2020年以降も,あらたなEvidenceが,示されている.
2020年,和田らが,重症感染症DICで,AT低下の意義を示した55).
2021年,関らが,FAB分類とDIC離脱,転帰の関係を示した11).
2021年,川杉らが,感染症DICにおける低FBG血症の意義を示した56).
2021年,窓岩らが,感染症DICにおける日本血栓止血学会;2017のDIC診断基準の有用性を示した57).
2021年,我々は,DIC離脱と転帰に影響を及ぼす因子として,臓器障害の影響の意義を示した24).
2)単施設の後方視的研究(表1B)これまで,単施設の後方視的研究として,池添らの報告(AML 17例;2012,ref 26),我々の報告(APL 10例;2013,ref 27),我々の報告(造血器悪性腫瘍 30例;2014,ref 28,図3),竹迫らの報告(AML 47例;2015,ref 29),横山らの報告(造血器悪性腫瘍 33例;2017,ref 30),栗田らの報告(造血器悪性腫瘍158例;2019,ref 31)がなされている.これらの単施設の後方視的研究により,rhTMのDICに対する有効性,安全性が,改めて,報告されている.
この中でも造血器腫瘍に関して,主要な後方視的研究となる朝倉らの研究52),松下らの研究53),関らの研究11)を示す.
①朝倉らは,造血器腫瘍に合併するDIC 1,032例を解析し(rhTMの市販後調査),DIC離脱率;55.9%,生存率;70.7%であることを示した52).また,全副作用;6.3%,出血性副作用;4.6%であったことも,示した52).
②松下らは,APLに合併するDIC 172例を解析し(rhTMの市販後調査),生存率;86%であったこと,出血性合併症は,3.5%であったことを示した53).
③関らは,造血器腫瘍に合併するDICに対するrhTM治療の市販後調査全例調査で,644例の急性白血病に絞って,FAB分類によるAcute leukemiaの臨床的特徴とrhTMの効果について,報告した11).rhTMによる治療で,ALLでは,AMLより,DIC離脱が高く,とくに,L1とPh+ALLで離脱率が高かった11).また,L3,Ph+ALL,M3で,生存率が高かった11).以上,DICの頻度,出血症状の程度は,FABの病型別に異なるが,rhTMはすべての病型でのDICに対応出来る薬剤であることも,あわせて示した11).副作用に関しては,出血性副作用はおおむね2~5%前後であり,重篤な出血性合併症はまれであった11).
ATは,分子量59,000で,半減期は,T1/2:60~70時間である33).
実際のATの使用方法・投与方法は,AT 70%以下の時,1,500 U(もしくは30 U/Kg)/日×3日間投与する33).さらに,最近,ATに関しては,遺伝子組み換えAT製剤も登場してきており,遺伝子組み換えAT製剤;36国際単位/kg/日×3日間投与する33).活動性のある出血,重篤な出血のある際は,投与は,控える33).
日本の日常臨床でDIC治療薬として使用されるATの作用機序について示す39).
ATの想定されるDICに対する作用機序として,下記①,②(a)~(c)が報告されている.
①抗凝固作用:IXa,Xa,トロンビンなどと結合して不活化 ②抗炎症作用:(a)ヘパリン様物質と結合,PGI2(prostacyclin)産生,白血球活性化を減弱(b)好中球表面のシンデカン4に結合,サイトカインの産生や好中球の遊走抑制(c)Xa,トロンビンの制御による炎症抑制.
ATの主要な報告は限られている.主に,敗血症に合併したDICに対しての有効性,および,安全性の報告である40–42).遺伝子組み換えAT製剤(2016年4月)については,現在,市販後調査;第二回中間集計がなされている.2018年7月時点で596例の登録があり,192例の調査報告が収集された.このうち,造血器腫瘍は5例にとどまっている.副作用は5.2%に認め,phase 3試験と比較して,重篤な出血などの副作用を認めなかった.今後の症例の蓄積により,その効果,副作用などが明らかになることが期待される.
2022年の各種ガイドラインにおける抗凝固療法の推奨度を提示する.
エクスパートコンセンサス(2010,2014追補)43),日本版敗血症診療GL(2020)44),新生児DIC GL(2016)45),2018の造血器腫瘍診療ガイドライン46)において,DIC治療における,rhTM,ATの推奨度は高くなっている.今回,2020年敗血症ガイドライン44)で,rhTMとATは,弱い推奨:weak recommendationとなり,推奨度が示された.
1)日本国内の血液学会のガイドライン2018の造血器腫瘍診療ガイドライン46)で,APLにおけるDIC対策として,輸血療法による支持療法とrhTMによる治療が推奨されている.
2)海外のguideline47)【2019年Bloodで示されたEuropean LeukemiaNetのexpert panelからのAPLのmanagement47)】APLに合併するDICに対してのrecommendationは,APLに合併したDICに対する輸血療法[PC(platelet concentrate),FFP]の重要性を強調している.さらに,抗凝固療法については,日本におけるDICに対するrhTMの有効性,および,安全性が引用され26, 27),今後の臨床試験などを通した検証に期待が寄せられている.
現在,日本血栓止血学会主導の新DIC前向き研究が施行されている.
①DIC病態の解明のための分子マーカーの検索
②DIC診断基準の妥当性の評価が,すすめられている.
現在,①に関しては,池添らが,造血器腫瘍合併DICにおいても感染症DICと同様に,HMGB-1やヒストンH3などの核内タンパクの血中濃度がDICの重症度の指標となることを示した58).さらに,HMGB-1などの核内タンパクであるDAMPsは,今後の新たなDIC治療のtargetとなる可能性も示唆されている58).
最後に,造血器疾患に合併するDIC治療中において,重篤な出血性合併症で致死的である脳出血は,未だ残された問題である59).DIC治療中の重篤な出血性合併症である脳出血に関しては,特に,APLの早期死亡と関連が認められている59).日本からの報告では,Kawanamiら;6例60),Matsushitaら;8例51),Ikedaら;1例61)の計15例の脳出血を合併した造血器腫瘍に合併したDICの症例が報告されている.転帰は,15例中14例が,致死的な転帰をたどり,厳しい予後である53, 59–61).重篤な出血性合併症である脳出血に対しては,十分な抗凝固療法も施行できず,急速な脳ヘルニアの進行へ進展し,予後不良であることを改めて示している53, 59–61).今後,ひきつづき症例を蓄積し,臨床病態を解明していく必要のある重要な課題である.
本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし