日本血栓止血学会誌
Online ISSN : 1880-8808
Print ISSN : 0915-7441
ISSN-L : 0915-7441
特集:DIC Up To Date
ビッグデータから見た本邦のDIC診療
久宗 遼山川 一馬
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2022 年 33 巻 5 号 p. 563-571

詳細
Abstract

近年,海外からの臨床ビッグデータを用いた記述疫学研究や比較研究が多く報告されるようになった.本邦でもDPC(Diagnosis Procedure Combination)データやレセプトデータが電子媒体で保存されるようになったことで,近年になり様々な分野で報告され始めた.本稿ではビッグデータとして症例数の多い保険データベースであるDPCデータを用いた播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation: DIC)に関する臨床研究に焦点し,その流れと今後の展望を論じた.DIC疫学研究ではDIC病態の周知や治療法の検討により,DICの死亡率は各基礎疾患において改善傾向が示された.各基礎疾患で治療薬の投与割合が異なっていたが,antithrombin製剤,recombinant thrombomodulin製剤の使用割合が多い傾向であった.各投与薬剤の比較研究ではいくつかの基礎疾患において死亡率の改善が認められた.DPC解析データのようなビッグデータを用いた大規模観察研究は質が高ければ,RCTに匹敵する臨床的価値を示す.今後はDIC領域において本邦からのさらなるビッグデータ解析による国際的発信が望まれる.

1.ビッグデータとは

「ビッグデータ」とはVolume(量),Velocity(発生頻度や更新頻度),Variety(多様性)の3つの特徴で語られることが多く1,この点から様々な疾患や薬剤,患者特性を用いる医療現場はビッグデータの宝庫である.近年の科学技術やIT業界の著しい進歩,発展に伴い,巨大データの収集,保管,管理が可能となり,レセプトデータやDPC(Diagnosis Procedure Combination)データも電子化され,電子媒体での保存が可能となった.日本の医療界でも2016年ごろからビッグデータを用いた報告や発表が散見されるようになり,2022年現在,医学中央雑誌には分野を問わず約900件以上が報告されている.本邦でのビッグデータは患者レジストリーと,保険データベースや電子カルテデータ等を含むデータベースに大別される.患者レジストリーは多施設から特定の疾患を有する患者の詳細な情報(血液検査やバイタルサイン,臓器障害スコアなど)を収集・登録するシステムであり,日本集中治療医学会が主導するJIPADや日本外傷学会が主導する日本外傷データバンクなどが含まれる.保険データベースはレセプトデータやDPCデータなどの公的医療保険データをもとに集積したデータベースである.電子カルテデータは保険データベースよりも少数症例を対象とするが,多施設の電子カルテなどから検査データ等を収集した統合データベースも存在する.

本稿ではビッグデータとして症例数が多い保険データベースであるDPCデータを用いた臨床研究に焦点を絞り寄稿することとした.DPCは2003年に82病院から導入され,その後徐々に導入病院が増えていき,2022年度時点でDPC対象病院は1,764病院(病床数約48万床)2となっている.これは急性期病院1,600病院以上を含み,急性期医療病床においては92%程度を占めている.このためDPCデータは急性期医療の9割以上の診療実績が網羅された,日本で最大のReal World Dataの宝庫だと言える.本稿ではDPCデータを用いたDIC研究論文を基に,データベース研究における現状の把握と今後の課題を考察する.

2.DPCを用いたDIC研究の概略

国際血栓止血学会では2001年に播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation: DIC)を「さまざまな要因によって生じる全身性の血管内凝固活性状態」と定義した3.基礎疾患の病勢悪化により,DICが進行し,臓器障害が生じることで致命的となる.多くの基礎疾患における研究によって,DICを併発した患者がDICを併発しなかった患者と比較して死亡率が2倍ほど高くなることが報告された4.これによりDICの病態生理の理解や治療方針の必要性が周知,検討され,この20年間でのDICの死亡率は低下5した.しかしながら,患者の病態や基礎疾患によってDICに対する治療法が異なるため,一概にDICの治療効果を評価することは難しい.また,これまでにDICに対する治療法のRCTが行われてきたが,いずれも有効性を示す結果が出ていない.質の高いエビデンスに基づいたDIC治療法が決まっていないことから,現在はDICに関連した基礎疾患に対する治療がDIC治療の中心となっている.

前述のとおり本邦では2003年からDPCが導入され,これまでに多くのデータが集積された.2014年に本邦のDPCデータを用いたDICに関する論文が初めて報告され,2021年までに19編624が報告されている(表1).研究内容は記述疫学研究や治療に関する比較研究に大別され,研究対象は基礎疾患毎に分けられる.

表1 DPCデータを用いたDIC論文19編のまとめ
番号 出版年 筆頭著者 対象患者数 カテゴリ DIC基礎疾患 研究デザイン 比較アーム
1 2014 Murata6 34,711 DIC全般 DIC全般 記述疫学研究
2 2014 Tagami7 9,075 敗血症 重症肺炎 比較研究 AT vs CTL
3 2015 Tagami8 6,342 敗血症 重症肺炎 比較研究 rTM vs CTL
4 2015 Murata9 7,535 敗血症 感染性DIC 比較研究 AT vs rTM
5 2015 Tagami10 2,202 敗血症 下部消化管穿孔術後 比較研究 rTM vs CTL
6 2015 Tagami11 2,164 敗血症 下部消化管穿孔術後 比較研究 AT vs CTL
7 2016 Yamana12 595 敗血症 重症感染症 記述疫学研究
8 2016 Murata13 14,324 DIC全般 DIC全般 記述疫学研究
9 2017 Tagami14 3,223 熱傷 重症熱傷 比較研究 AT vs CTL
10 2019 Araki15 1,864 新生児 新生児DIC 記述疫学研究
11 2019 Ohbe16 1,606 熱中症 熱中症DIC 比較研究 AT vs rTM vs CTL
12 2020 Yamakawa17 325,327 DIC全般 DIC全般(継時的推移) 記述疫学研究
13 2020 Ohbe18 337,132 DIC全般 DIC全般(病態分類) 記述疫学研究
14 2020 Taniguchi19 25,299 固形癌 固形癌(Stage IV) 比較研究 AT vs CTL
15 2021 Taniguchi20 25,299 固形癌 固形癌(Stage IV) 比較研究 rTM vs CTL
16 2020 Tarasawa21 3,081 敗血症 急性胆管炎 比較研究 rTM vs CTL
17 2020 Umegaki22 2,222 敗血症 人工呼吸器管理敗血症 比較研究 AT vs AT+rTM
18 2020 Suzuki23 662 敗血症 重症市中肺炎 比較研究 rTM vs rTM+AT
19 2022 Iwasaki24 9,840 産科 産科DIC 比較研究 AT vs CTL

DPC: Diagnosis Procedure Combination, DIC: disseminated intravascular coagulation, AT: antithrombin, rTM: recombinant human soluble thrombomodulin, CTL: control.

3.DPCを用いた記述疫学研究

DICに対する記述疫学研究は6編6, 12, 13, 15, 17, 18あり,DIC全般を対象とした研究が4編,敗血症が1編,新生児が1編であった(表2).DPCデータを用いることで1万以上の患者を対象とすることができ,DICの疫学を俯瞰して知ることができる.

表2 DPCデータを用いた記述疫学研究6編のまとめ
出版年 筆頭著者 対象疾患 症例数 期間 主要な結果
2014 Murata6 DIC全般 34,711 3年間 年度毎に死亡率は低下し,敗血症で有意に低下
2016 Yamana12 重症感染症と DIC 595 1年間 DPCデータによるDIC診断は感度は低いが特異度が高い
2016 Murata13 感染性DIC 14,324 3年間 継時的にrTM製剤の投与割合が増加している
2019 Araki15 新生児DIC 1,864 2年間 発症率は入院患児の2.4%,リスク因子は低出生体重
2020 Yamakawa17 DIC全般 325,327 8年間 死亡率が改善し,各疾患群でrTM製剤の投与割合が上昇している
2020 Ohbe18 DIC全般 460,448 8年間 臓器障害は大血管/敗血症で多く,出血イベントは大血管/産科で多い

DPC: Diagnosis Procedure Combination.

・DPCデータには血液検査データがないため,急性期DICスコアなどのDIC診断基準を用いた診断ができないことは大きなLimitationである.2016年にMurataら13はDPCデータによるDIC診断の妥当性(validity)を検証するため,血液検査を用いたDIC診断と比較したバリデーション研究をおこなった.処置による重症敗血症の感度・特異度ともに6割程度で,DICについては感度55%,特異度67%であった.ICD-10を用いた診断による重症敗血症の感度20%,特異度98%で,DICについては感度35%,特異度98%であった.DPCデータ記載の病名の特異度は高いため,DICのような治療を要する疾患は,DPCデータでも必要なDIC症例が含まれていると証明された.

・Yamakawaらは8年間のDIC患者325,325名の疫学を報告した17.DIC全体の死亡率は41.8%(2010年)から36.1%(2017年)に継時的に低下しており,各基礎疾患での死亡率も同様に低下の推移を示している.特に敗血症や固形癌,白血病で死亡率が低下していた(図1).使用薬剤についてはDICに対するrTM(recombinant human soluble thrombomodulin)の治療効果の報告もあり,2012年頃よりrTMの使用割合が急激に上昇していた(図2).対照的にタンパク分解酵素阻害薬の使用割合が低下していた.AT(antithrombin)についてはわずかに増加していた.現時点での日本のDIC治療薬としてはおおむねrTMとATの二剤が選択肢として使用されている実態が分かった.各基礎疾患別での検討においても,敗血症,固形癌,白血病,外傷は同様でrTMのみが増加傾向であった.一方で,産科は異なりATの使用割合が他疾患に比べて高かった.その原因は不明である.

図1

DIC症例の死亡率推移(文献17より)

A:DIC全症例における死亡率の推移.

B:各基礎疾患群における死亡率の推移 青;敗血症,赤;固形癌,黄;白血病,灰;外傷,緑;産科.

DIC: disseminated intravascular coagulation.

図2

DIC症例の使用薬剤の推移(文献17より)

A:全DIC症例,B:敗血症,C:固形癌,D:白血病,E:外傷,F:産科.

青;アンチトロンビン製剤,赤;リコンビナント製剤,黄;タンパク分解酵素阻害薬,灰;ヘパリン.

DIC: disseminated intravascular coagulation.

・Ohbeらは,DIC患者337,132名の臓器障害や臨床病態,治療法を報告した18.臓器障害は大血管疾患(SOFA 2.8)や敗血症(SOFA 2.2),外傷(SOFA 2.2)で多い傾向であった.大量出血のイベント発生率は大血管疾患(24%),外傷(15%),産科(10%),固形癌(10%)の順で多い傾向であった.抗線溶薬であるトラネキサム酸は大血管(62%)と外傷(28%)で多かった.輸血については新鮮凍結血漿が大血管疾患(76%),産科(56%),外傷(38%),白血病(29%)の順で多く,血小板輸血は大血管疾患(66%)と白血病(60%)で多かった.全体の医療費は2,480,000円から2,820,000円に増大傾向であった.

・新生児DIC症例は,今まで本邦の発症率やリスク因子など疫学的に不明な点が多かった.DPCを用いることの優位性の一つとして希少疾患の解析に強いことが挙げられる.Arakiらは本邦初の新生児DIC 1,864例を対象とした疫学研究の報告に至った15.DIC発症率は2.4%であり,DIC発症時の死亡率は14.1%であった.生存例での比較でもDIC症例では入院期間が有意に長かった(73.4日 vs 32.0日).DIC発症のリスク因子は出生週数28週未満(10.2%)と極低出生体重(9.8%)であった.DICが新生児の死亡率や入院期間に大きく関わることがわかった.

記述疫学研究の論文では,本邦でのDIC全体の死亡率推移や抗凝固薬使用のトレンド,基礎疾患毎の推移などが主に報告されていた.また,今まで調べることが困難であった希少疾患である新生児DICについても発症率やDICのリスク因子の検討が行われた.DPCデータを用いることで基礎疾患も含めた実臨床におけるDICの全体像を把握することができる.

4.DPCを用いた治療介入に関する比較研究

DPCデータを用いたDIC治療の比較研究は13編711, 14, 16, 1924認められた(表3).多くがATやrTMの治療効果について比較検討されていた.多くの論文で主要評価項目を28日死亡率に設定し,副次的評価項目は院内死亡や合併症,入院期間などとして,その有用性を評価していた.以下それぞれの製剤についての研究報告を挙げる.

表3 DPCデータを用いた比較研究13編のまとめ
出版年 筆頭著者 DIC基礎疾患 全症例数 治療アーム マッチング後症例数 主要評価項目
2014 Tagami7 重症肺炎 9,075 AT (+) 2,194 28日死亡率 41.1%*
AT (–) 2,194 45.1%*
2015 Tagami8 重症肺炎 6,342 rTM (+) 1,140 28日死亡率 37.6%
rTM (–) 1,140 37.0%
2015 Murata9 感染性DIC 7,535 AT (+) 3,601 28日死亡率 28.1%
rTM (+) 3,934 26.8%
2015 Tagami10 下部消化管穿孔術後 2,202 rTM (+) 621 28日死亡率 26.1%
rTM (–) 621 24.8%
2015 Tagami11 下部消化管穿孔術後 2,164 AT (+) 518 28日死亡率 19.9%*
AT (–) 518 27.6%*
2017 Tagami14 重症熱傷 3,223 AT (+) 103 28日死亡率 33.0%*
AT (–) 103 47.6%*
2019 Ohbe16 熱中症DIC 1,606 rTM (+) 556 院内死亡率 risk difference –5.5%*
AT (+) 556 risk difference –4.2%
AT, rTM (–) 494 risk difference –6.5%*
2020 Taniguchi19 固形癌(Stage IV) 25,299 AT (+) 919 28日死亡率 30.3%
AT (–) 3,676 28.9%
2021 Taniguchi20 固形癌(Stage IV) 25,299 rTM (+) 1,979 28日死亡率 34.3%
rTM (–) 7,916 37.4%
2020 Tarasawa21 急性胆管炎 3,081 rTM (+) 910 28日死亡率 9.5%*
rTM (–) 910 12.9%*
2020 Umegaki22 人工呼吸器管理を有する敗血症 2,222 AT 1,017 28日死亡率 53.2%
AT+rTM 1,205 54.8%
2020 Suzuki23 重症肺炎 662 rTM 189 院内死亡率 45.5%
rTM+AT 189 40.2%
2022 Iwasaki24 産科DIC 9,840 AT (+) 3,290 28日死亡率 0.3%
AT (–) 3,290 0.4%

DPC: Diagnosis Procedure Combination, AT: antithrombin, rTM: recombinant human soluble thrombomodulin.

*: p<0.05(有意差あり).

・ATがAT非投与群と比較して有意差を持って死亡率改善と関連した基礎疾患は重症肺炎(41.4% vs 45.1%),下部消化管穿孔術後(19.9% vs 27.6%),重症熱傷(33.0% vs 47.6%)であり7, 11, 14,いずれも5~15%程度の改善することが明らかとなった.重症肺炎や重症熱傷では,副次的評価項目である人工呼吸器離脱期間(10.4日 vs 9.0日/16.4日 vs 12.6日)が有意差を持って延長していた.固形癌については死亡率の低下は認められず,出血割合が少ない傾向19であった.しかし,サブグループ解析では入院時敗血症症例で有用性が認められた.産科疾患では元々の死亡率が低いこともあり,AT投与による死亡率の低下は認めなかったが,子宮摘出率は有意に低下24していた.

・rTMがrTM非投与群と比較して有意差を持って死亡率改善と関連した基礎疾患は,急性胆管炎(9.5% vs 12.9%)と熱中症(risk difference –5.5%;95% confidence interval:–9.5 to –1.6%)であった16, 21.急性胆管炎ではrTM投与群で有意に死亡率の低下が見られたが,副次的評価項目である入院期間については長い傾向にあったが,有意差はなかった.また,傾向スコアマッチングはされていないが,感染性DIC全体においてrTM投与群ではAT投与群と比較して有意に院内全死亡率が低く(38.6% vs 43.5%),医療費も低額(16,343.0 euro vs 19,940.8 euro)であった9.固形癌の症例ではrTM投与群が主要評価項目や副次的評価項目で有意差がなかったが,サブグループ解析では直腸癌と婦人科癌で有用性が認められた20

・AT製剤,rTM製剤のそれぞれで単剤療法と併用療法についての比較研究がされている.人工呼吸器管理を有する敗血症症例ではAT単剤療法とAT+rTM併用療法について比較検討された22.AT投与群で主要表項目である28日死亡率や副次的評価項目である入院期間に有意差はなかった.重症肺炎ではrTM単剤療法とrTM+ATの併用療法について比較検討された23.rTM単剤療法で28日死亡率の改善は認めなかったが,rTM+AT併用療法と比較して死亡率の改善はないが,赤血球輸血率が有意に低い結果(25.9% vs 37.0%)となった.

比較研究ではDICの基礎疾患ごとに,実臨床で使用している薬剤について検討していた.今回の結果ではAT製剤やrTM製剤の投与群で非投与群と比較し優位性があった基礎疾患群も認められた.しかしながら,敗血症群ではAT投与群とrTM投与群で結果はさまざまであった.敗血症群での疫学研究の結果を鑑みるとrTM製剤の使用割合が継時的に変化していることから,rTMの使用法や投与期間などでばらつきがあり,DPCデータからは拾えないバイアス因子が統計学的手法に影響している可能性が考えられた.ビッグデータを用いた研究は症例数が多いが,調整できない因子の影響を考慮する必要がある.慎重な解釈をすることでそれぞれの基礎疾患による適切なDIC治療薬の選択につなげることができると考えられる.

DPCデータを用いたDIC症例を対象とした比較研究を紹介した.DPC研究は後方視的観察研究であるという大きなLimitationが存在するが,実臨床での生存率や基礎疾患の評価,ガイドラインやRCT,meta-analysisでは結論が出ていない治療成績や評価できない症例を検討することが可能である.ビッグデータでの研究結果をランダム化比較試験(randomized control trial: RCT)などその他のデザインの研究と合わせて評価することで,真の有効性が評価できる.

5.ビッグデータとRCT

臨床研究のエビデンスヒエラルキーにおけるゴールデンスタンダードはRCTが位置づけられる.RCTは介入群と対照群をランダムに割りつけることで,さまざまな交絡因子を一括して除外することができる最も優れた方法とされる.二群間の患者背景は揃い,治療介入手法は均一化し,アウトカム評価における恣意性も失われる.それにより真の効果に限りなく近づける内的妥当性が高いデザインとなる.しかしながらRCTを実施するには困難な点が多数ある.倫理的問題や費用的な問題,患者選択の問題,RCT開始後の問題などがあるため,すべての臨床疑問においてRCTによる答えを求めることは現実的ではない.また,RCTは日常臨床ではなく,実験的な条件で行われることが多いため,対象集団が限定的になっている.つまり,被験者数が少なく,並存疾患がある患者や高齢者,小児などは除外されることが多く,また追跡期間も短い.そのため,リアルワールドの臨床とはかけ離れた環境での比較となっている.

本稿で取り上げたDPC解析研究では実臨床のデータを用いているため,RCTでは除外される患者も含まれたデータである.DPCを用いた臨床研究とRCTの違いを表4に示す.DPC解析データは収集されているデータを基に研究,解析を行うため,RCTの問題である金銭面についても負担は少なく実行でき,長期間の観察も可能となる.また,RCTでは埋められないエビデンスの隙間についても,DPC解析データを用いて大規模観察研究を行うことで,RCTを補完することが可能である.ただし,DPC解析データを用いた観察研究は,RCTのように患者をランダムに割りつけることができないため,交絡の影響を受けやすい.傾向スコア分析や操作変法法を用いて,患者背景をなるべく揃えることで交絡の影響を最小限に抑えることができる.RCTは理想的な状況での有効性を評価するが,DPC解析データを用いた研究では実臨床の有用性を評価することができる.

表4 ランダム化比較試験とビッグデータ研究の比較
RCT ビッグデータを用いた研究
設定 管理された実験環境 現実社会
評価している内容 有効性 有用性
対象 限定的かつ均一 多様
人数 少数 多数
交絡の影響 受けにくい 受けやすい
内的妥当性 優れる RCTより劣る
外的妥当性 劣る RCTより優れる
費用 莫大 RCTより少ない
観察期間 短期間 長期間も可能
実施可能性 低い RCTよりも高い
データ利用に関する患者の同意 文書同意が必要 二次利用の同意は不要
データベース構造 決まっている データベースにより異なる
データベース保有者 臨床試験のスポンサー 官民事業者など
データクリーニング 実施済み 通常は実施せず

ビッグデータを用いた大規模な観察研究は質が高ければ,RCTと同様の結果を示すことができ,RCTを補完する役割を十分に果たすことができる.海外では本邦よりも早い時期からビッグデータの収集が行われており,ビックデータを用いた研究も多く報告されており,学問としても確立しており,分野として本邦よりも進んでいる.本邦のビッグデータを扱う研究もやっとスタートラインに立てたのが現状である.今後,臨床医も含めてビッグデータを用いた研究の理解と知識の共有が必要であると考えられる.

6.今後の展望

今までにDIC治療に対して様々なRCTが組まれてきたが,エビデンスとなりうる結果を示すことが困難であった.しかしながら,DIC治療を要すると考えられる治療対象集団がいることも,同時に判明してきた.今後大規模なRCTを組むことが難しい現状を考えると,実臨床を元にしたビッグデータから治療対象集団を絞り込む検討が求められる.

著者全員の利益相反(COI)の開示:

久宗遼:本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

山川一馬:研究費(受託研究,共同研究,寄付金等)(株式会社JIMRO)

文献
 
© 2022 日本血栓止血学会
feedback
Top