抄録
(目的)
分娩時の出血は突然かつ短時間に大量になることがあり, 当然輸血が必要となる場合の血液の所要量は多量となる. このため自己血輸血は母体の安全確保のために有益である可能性が高い. 妊娠中の自己血採血の安全性は十分確認されてはおらず, また関連学会からも明確なガイドライン・勧告はない. そこで妊産婦における自己血輸血の安全性の確認を目的とし前方視的研究を行った.
(対象)
1 分娩時に多量出血が予測される症例, 2 緊急時の血液確保が困難であることが予測される症例の2群を対象とした. 2005年3月1日~2006年5月31日までの間に66症例のエントリーがあり, 190採血が同期間に行われた. 症例別内訳は, 分娩時に多量出血の可能性のある症例が48例 (子宮筋腫合併妊娠17例, 前置胎盤17例, 低置胎盤14例), 大量出血時に血液確保が困難であることが予測される症例が16例 (Rh陰性11例, 不規則抗体陽性5例), その他前回分娩時の多量出血既往の症例が2例であった. 検討は母体側で母体有害事象の頻度, 貯血に伴う貧血の進行, 輸血 (返血) 率, 輸血に伴う副作用発生, 胎児・新生児側で自己血採血中の胎児心拍異常, 出生体重・アプガースコア, 1カ月健診時での児の異常の有無について行った.
(結果)
母体有害事象として貯血に伴うVVRの発生を66症例中8症例 (12.1%) 190採血中11例 (5.8%) に認められたがいずれも軽症 (VVR1度) であり2例にのみ対症療法を要した. 自己血採血中の胎児心拍異常は全190採血で1例も認めなかった. 分娩時の平均出血量は980±861 (mean±SD) (ml) で66症例中11症例に自己血の返血が行われた. 返血が行われた11例の分娩時出血量は1,992±1,279 (mean±SD) (ml) で, 返血が行われなかった55例の出血量752±531 (mean±SD) (ml) と比較すると有意に多量であった (p<0.05). 同種血輸血は前置胎盤の1症例のみ自己血輸血に加えて行われた. 68人の児 (2例双胎妊娠) が出生し, 出生週数は37.6±3.5 (mean±SD) (週), 出生体重は2,892±431 (mean±SD) (g) でApgar score 1分後, 5分後の中央値はそれぞれ8, 9であった. 児の1カ月健診時において異常所見は全例で確認されなかった.
(結論)
今回の検討では, 自己血輸血が母児に及ぼす影響のために妊娠中の自己血輸血の施行を禁忌とするような事象は確認されなかった. 今後は多施設共同研究を通じての症例数の蓄積, 長期的な転帰の確認を行いながらガイドライン作成を行う必要がある.