抄録
妊娠6ヵ月の黒毛和種牛(5歳)が、放牧場で腹痛と沈うつの症状を呈して衰弱していたとの稟告で来院した。初診時に著しい腹部膨満が認められたため超音波検査を行ったところ、腹水の貯留と腫瘍状組織の増生が認められた。血液および腹水検査では尿素窒素とクレアチニンの高値が認められた。腫瘍または膀胱破裂を疑い、診断的開腹により大量の腹水を確認したが、腹腔内の内視鏡検査では腫瘍状組織は認められなかった。膀胱の内視鏡検査では、尿中に浮遊物と膀胱粘膜の一部に糜爛が認められた。これらの検査結果から、放牧場にて何らかの腎毒性を有する植物を採食した事によるネフローゼ、尿毒症を疑って治療を試みた。持続点滴、抗生物質の全身投与、膀胱内への薬液注入、腹水の除去などを行ったが症状は改善せず、第11病日に死亡した。剖検では、腎皮質の出血および弓状動脈への血栓形成による多発性梗塞と、腎リンパ節の著しい腫大が認められた。本症例で見られた腹水は尿成分が主体となっていたことから、腎梗塞部からの尿の漏出が原因であると考えられた。しかし、腎臓の梗塞を起こした血栓の成因は明らかにできなかった。