抄録
6歳齢,去勢雄の柴犬の左外耳道に,浸潤性発育を示す腫瘤が認められた。組織学的に腫瘍は,主として充実性胞巣を形成する紡錘形腫瘍細胞からなり,立方形から多角形の腫瘍細胞に内張りされる腺管構造を混えていた。腫瘍細胞は深部組織に広範に浸潤し,間質に骨や軟骨基質は認められなかった。両タイプの腫瘍細胞ともに核異型と高い分裂活性を示していた。腺管を構成する細胞は,免疫組織学的に汎サイトケラチンおよびサイトケラチン8に陽性であった。紡錘形の腫瘍細胞は,ビメンチン,汎サイトケラチンおよびα平滑筋アクチンに強陽性であり,これらの細胞が由来した筋上皮細胞の細胞学的特徴を維持していることが示された。これらの所見から,犬では稀な腺上皮および筋上皮細胞の悪性増殖を伴う耳垢腺癌と診断した。マージンを広く取り切除した後は,6ヵ月間再発や転移を認めていない。