抄録
5歳を超える年齢の雌のナミハリネズミ2頭において,エストロジェンレセプター陽性の乳腺癌を手術により治療することに成功したが,その後,別種の悪性腫瘍が発生した。症例1では,乳腺の腫瘍組織は腺腔の形成を特徴とし,篩状癌の様相を呈していた。腫瘍組織の大部分には多数の筋上皮細胞が残存しており,α平滑筋アクチンとサイトケラチンが陽性であった。術後9か月で前腕部に紡錘形細胞の増殖を特徴とした腫瘍ができ,紡錘形の腫瘍細胞が平滑筋アクチンで陽性に染まりデスミンで染まらなかったことから,筋線維芽細胞肉腫と診断した。症例2の乳腺癌は面疱癌の形態学的特徴を示し,癌胞巣の中心部に壊死物質があり,平滑筋アクチン陽性の筋上皮細胞は残存していなかった。約13か月後にこのハリネズミは死亡したが,剖検時に腎細胞癌をみつけ,免疫染色と電子顕微鏡による観察に基づいて近位尿細管由来だと判断した。