抄録
日本の獣医解剖学は形態を扱う科学としては機能していない。獣医学に属する形態学は,科学哲学におけるナチュラルヒストリーとは関連の無い細胞生物学・分子生物学から研究成果を集めているため,標本収蔵に関心をもつことはなくなっている。ここで,遺体科学の新しいコンセプトを提唱する必要があろう。遺体科学の営みは,遺体や標本の収集,解剖,恒久的収蔵からなり,獣医学の外の領域で,ナチュラルヒストリーにおける三次元デジタル形態学を強力に推し進めている。遺体科学の新しい理念は,野生動物医学の領域に実り多い研究成果をもたらし続けることだろう。