日本野生動物医学会誌
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野生に帰れない希少種の救護個体に関する自由集会企画の趣旨と背景〜傷病鳥獣救護の視点から〜
淺野 玄
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2016 年 21 巻 4 号 p. 111-113

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抄録

公共事業として行われる傷病鳥獣救護事業では,「種の保存法」で国内希少野生動植物種(国内希少種)に指定された傷病個体が救護されることがある。「種の保存法」の目的から,野生復帰は不可能と判断された国内希少種の傷病個体は,種の保存に資さない限りは致死が認められていないものと解釈される。野生復帰不可能な国内希少種を保護している傷病鳥獣救護施設では,種の保存を目的とした保護増殖や生物多様性保全を目指した啓発普及などに野生復帰不能な個体を活用する努力が行われているが,予算,人手,飼養設備などには限界がある。また,増え続ける野生復帰不能な国内希少種は,傷病鳥獣救護事業や保護増殖活動そのものを圧迫するだけではなく,終生飼養される個体の福祉やQOLの低下などが現実問題として生じている。苦痛が大きかったり致死が明らであったり,獣医学的にも福祉の観点からも安楽殺処分が最善の策であると結論づけざるを得ない事例や,同時多発的に傷病が発生した場合のトリアージなどについても,国内希少種の傷病個体の取り扱いに関して明確な指針は整理されていないのが現状である。野生復帰不可能な希少種に関わる課題について整理を行い,未来思考的に保全と福祉の両立に配慮したガイドラインの整備が求められている。

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© 2016 日本野生動物医学会
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