日本野生動物医学会誌
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特集論文
動物園・水族館における生息域外保全
高見 一利
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2019 年 24 巻 2 号 p. 49-57

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抄録

 近年,生物多様性の喪失が深刻化する中で,動物園・水族館における生息域外保全への期待が高まっている。しかし,動物園・水族館の持つ施設,労力,資金といった資源は限られているため,目的や実現可能性等に基づいて優先的に取り組む種を定めるコレクション計画が策定されている。優先種に対しては,飼育下個体群の個体数や遺伝的多様性を適切に維持するための個体群管理計画が策定されており,この計画に沿って生息域外保全が進められている。さらに,最近では,保全計画の推進にあたって,動物福祉の実践も求められるようになってきている。すなわち,肉体的にも精神的にも健康な個体からなる個体群を確立し,遺伝的多様性を保ちつつ長期にわたって存続させることが求められているということである。こういった取り組みの実効性を担保するために,飼育ガイドラインの策定や動物園・水族館に対する認証制度の導入が進められており,動物園・水族館のレベル向上が図られている。保全対象種に関する普及啓発や調査研究も,動物園・水族館が行う保全活動の一環として重視されている。このように,動物園・水族館における保全活動は多様化,複雑化しつつある。生息域内保全の補完的な取り組みという位置づけではあるが,その必要性は確実に増大している。

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