抄録
近年,生物多様性を低減する要因として移入種問題が注目されている。移入種とは,人間を介した意識的または無意識的な移動によって新天地で繁殖するに至った種のことを指す。現在日本には105種の在来陸棲哺乳類が生息しているが,それに対して移入哺乳類は約40種に達し,日本の哺乳類の約3割が移入種によって占められていることになる。これら移入哺乳類は,農業等被害・人獣共通感染症・近縁在来種との交雑・競合による在来種排除・捕食による在来種の減少・植生破壊と土壌浸食といった問題を引き起こす。移入種対策は世界的にも重要課題とされている。しかし,日本では国や一部の地方自治体で対策が開始されてきてはいるものの,多くは対症療法的な駆除の域を脱してはいない。近年における移入種発生の根本的要因である飼育動物管理の適正化を図るとともに,社会的危機管理問題として,科学的データに基づく順応的管理プログラムを早急に作り上げる必要がある。