日本野生動物医学会誌
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7 巻, 1 号
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特集
  • Erik STAUBER
    2002 年 7 巻 1 号 p. 1-4
    発行日: 2002年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    The primary goal of a wildlife rehabilitation (WR) program is the release of injured animals back into the wild. Other important aspects of a WR program must be appreciated. These include advancement of medical knowledge, research, education, and conservation. Birds from a rehabilitation program may provide unique opportunities to learn about surgical techniques, medical treatments, management aspects, nutritional needs, or captive breeding and reintroduction programs as well as the functioning of a healthy environment. Wildlife rehabilitation may be incorporated into educational programs to teach the general public about the value of wildlife and the concepts of interdependence of all life forms. Therefore, the veterinarian (rehabilitator) who participates in WR with a focus on individual animals may also contribute to knowledge which may ultimately benefit whole populations and ensure preservation of a rich and diverse environment.
  • 池田 啓
    2002 年 7 巻 1 号 p. 5-12
    発行日: 2002年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    兵庫県但馬地域に生息していたコウノトリは,1971年,野生状態では絶滅してしまった。その後,飼育下での増殖が取り組まれ,1989年孵化に成功,1999年野生化を視野に入れた実践的な科学研究を行うため「兵庫県立コウノトリの郷公園」が開園した。このプロジェクトでは,研究をオープンにし,多岐の分野・組織の人々とネットワークを組み,協働,連携してプロジェクトを進め,コウノトリという種を単に野生下に回復するのではなく,将来的にコウノトリと共存できる環境保全型社会を実現できるような方策の提言までも視野に入れた研究を行っている。
  • 池田 透
    2002 年 7 巻 1 号 p. 13-16
    発行日: 2002年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    近年,生物多様性を低減する要因として移入種問題が注目されている。移入種とは,人間を介した意識的または無意識的な移動によって新天地で繁殖するに至った種のことを指す。現在日本には105種の在来陸棲哺乳類が生息しているが,それに対して移入哺乳類は約40種に達し,日本の哺乳類の約3割が移入種によって占められていることになる。これら移入哺乳類は,農業等被害・人獣共通感染症・近縁在来種との交雑・競合による在来種排除・捕食による在来種の減少・植生破壊と土壌浸食といった問題を引き起こす。移入種対策は世界的にも重要課題とされている。しかし,日本では国や一部の地方自治体で対策が開始されてきてはいるものの,多くは対症療法的な駆除の域を脱してはいない。近年における移入種発生の根本的要因である飼育動物管理の適正化を図るとともに,社会的危機管理問題として,科学的データに基づく順応的管理プログラムを早急に作り上げる必要がある。
  • 遠藤 秀紀
    2002 年 7 巻 1 号 p. 17-22
    発行日: 2002年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    野生動物の遺体が,それ自体で意味ある研究対象として扱われることは,今日,非常に少ない。分子遺伝学と生態学で単純な採取材料として用いられることはあっても,解剖学が衰退する中,遺体そのものは,ほとんど研究されていない。そこで私は,解剖学の古典的問題意識を学界と社会の現実の情勢に合わせることで,新たに遺体研究の活性化を図りつつある。ここでは新たな遺体研究の体系を「遺体科学」と名付けよう。遺体科学の本質は,遺体の無制限収集に始まる。遺体科学においては,遺体から科学的にできる限り興味深い研究成果を残すという観点から,研究者のセンスが問われ続けている。そして遺体の標本化と収蔵,すなわち継承性を満たすことで,遺体科学は完成に近づく。遺体を廃棄物にすることを防ぎ,これを不滅の学術資産に昇華するために,遺体科学の推進を提唱する。
  • 福江 佑子, 金子 弥生, 橋本 幸彦, 藤井 猛, 金澤 文吾, 中村 俊彦, 佐伯 緑
    2002 年 7 巻 1 号 p. 23-29
    発行日: 2002年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    近年,日本においても「Animal Welfare(動物福祉)」の考えは浸透し,特に実験動物では,倫理的な取り扱いのためのガイドラインや作業マニュアルなどが作成されてきている。しかし,日本では野生動物に対する「Animal Welfare」の意識は低く,共通認識すら出来上がっていない。すなわち,動物の取り扱いは個人のモラルに委ねられている。野生動物の場合,実験動物における「3 Rs(Replacement, Reduction, Refinement)」全てを実施することは難しく,個体そのものだけではなく,個体の属する個体群や生態系まで配慮して調査研究を行うことが求められる。食肉目調査マニュアル作成準備会では,上記のことを鑑み,「野生動物の福祉」を考慮した食肉目調査マニュアルの作成とともに「野生動物の取り扱いに関するガイドライン」の策定を呼びかけるための準備として,食肉目の研究者を対象にアンケート調査を行った。その結果,回答者の約90%が哺乳類研究において「動物福祉」の観点と「野生動物の取り扱いに関するガイドライン」が必要だと回答した。また調査遂行上,発生した問題点や失敗例に関する設問に対し,95%が失敗の経験があると答え,その内容は捕獲,器具の装着,麻酔に関するものであった。本稿では,食肉目研究者から得られたアンケート結果と,海外の「動物の取り扱いに関するガイドライン」を紹介し,日本における野生動物調査研究における問題点と課題を論じる。
  • 岸本 真弓
    2002 年 7 巻 1 号 p. 31-37
    発行日: 2002年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    生態系を構成する野生動物に対しての畏敬の念を持つことがフィールドでの野生動物捕獲の心構えの基本である。野生動物の捕獲はそれによってもたらされるマイナス影響につりあうだけの結果が得られる場合にのみ認められるものであり,明確な目的のないまま行われてはならない。先人達の経験を生かし,対象動物の生理・生態のみならず地域生態系の特性をも踏まえ,研究計画を立てなくてはならない。方法を選択する場合には,個体の安全,作業員の安全,周辺環境への最低限の影響を念頭におき,目的を達成するために最小の危険性で最大の効果が得られるよう手段と時期と場所を選ぶことが重要である。捕獲作業における責任の所在と役割分担を明確にし,作業工程のシミュレーションをし,最低限必要な道具や薬品,人手の準備だけでなく予測されるトラブルに対応できる準備をして捕獲に臨むべきである。
  • 柵木 利昭, 堀 充陽, 酒井 洋樹, 猪島 康男, 柳井 徳磨
    2002 年 7 巻 1 号 p. 39-43
    発行日: 2002年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    岐阜県山間地で飼育されていたヒツジに丘疹および膿痂皮を主徴とする皮膚感染症の集団発生が認められ,病理組織,免疫組織およびPCRによりパラポックスウイルス感染による伝染性膿疱性皮膚炎と診断された。同山地に生息するニホンカモシカには,パラポックスウイルス感染症の流行があることから,カモシカの感染材料をヒツジに接種し伝播の可能性を調べた。カモシカ皮膚感染材料を3か月齢幼ヒツジ2例に接種したところ,いずれにも接種後5日目より接部位の口唇に紅斑と丘疹から成る皮膚病変が種々の程度に認められた。1例にデキサメサゾン投与し免疫抑制処置を施したところ,病変の程度が重い傾向がみられた。組織学的には,いずれにしても皮膚有棘細胞細胞質に封入体が認められた。免疫染色では,パラボックスウイルス抗原に陽性反応を示し,PCR法で病変部にパラボックスウイルスDNA特有の235bpのバンドが検出された。ニホンカモシカのパラボックスウイルス感染症は,免疫力の低い幼ヒツジに対して伝播可能であり,免疫抑制処置により皮膚病変は重度になることが推測された。これらのことは家畜の感染症の流行に際して,野生動物の存在が無視できないことを示唆している。
  • 柳井 徳磨, 酒井 洋樹, 後藤 俊二, 村田 浩一, 柵木 利昭
    2002 年 7 巻 1 号 p. 45-51
    発行日: 2002年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    近年,動物園では飼育技術の向上に伴い,動物の長期生存が可能になり様々な腫瘍性病変に遭遇する機会が増えた。これらの腫瘍性病変を検索し,情報を蓄積することは,ヒトの同様な腫瘍の発生原因を解明するうえで有用である。我々は,ヒト腫瘍との比較のために,ヒトに類縁なサル類の様々な腫瘍,アジア産クマ類の胆嚢癌に着目して症例を蓄積し,データベース化を試みている。以下に概要を紹介する。1) サル類の腫瘍:サル類における腫瘍発生の報告は極めて少ない。動物園で飼育した各種のサル約600例を検索して,13例に腫瘍性病変が認められた。神経系では,カニクイザルの大脳に星状膠細胞腫,消化器系では,ニホンザルの下顎にエナメル上皮歯芽腫,ブラッザグエノンに胃癌,シロテテナガザルおよびボウシラングールの大腸に腺癌が認められた。内分泌系では,ワタボウシタマリンの副腎に骨髄脂肪腫,オオガラゴの膵臓に内分泌腺癌が認められた。造血系では,ニホンザル2例の脾臓にリンパ腫,ハナジログエノンのリンパ節にリンパ腫が認められた。その他,ムーアモンキーの卵巣に顆粒膜細胞腫,ニホンザルの皮膚に基底細胞腫が認められた。これらサルの腫瘍の形態学的特徴は,ヒトの同種のものと酷似していた。2) クマ類の胆嚢癌:動物園で飼育されているナマケグマとマレーグマに,胆嚢癌が好発することが知られている。7例のクマ類に発生した胆嚢癌を検索し,その病理学的特徴を調べた。組織学的には管状腺癌の浸潤と線維化が高度である。クマ類の胆嚢癌はヒト胆嚢癌の有用なモデルとなりうると考える。
  • 海野 年弘, 稲葉 祐次, 小森 成一
    2002 年 7 巻 1 号 p. 53-59
    発行日: 2002年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    トリブチルスズ(TBT)やトリフェニルスズ(TPT)などの有機スズ化合物は,ポリ塩化ビニールの安定剤,農業用の殺菌剤,船底や漁網の防汚塗料などとして広く使用されてきた。しかし,その使用が急速に広がるにしたがって環境に与える影響も危惧されてきた。TBTやTPTは内分泌撹乱物質としてイボニシやカキなどの貝類にインポセックスをもたらすことが知られている。このような生殖異常に加えて,哺乳動物に対する毒性では,振戦,痙攣,運動失調,自発性不随意運動の発現など各種神経機能障害を引き起こすことが報告されている。TBTやTPTによる神経症状では中枢神経系の病理組織学的変化が乏しい。したがって,有機スズ化合物は細胞膜イオンチャネルや薬物受容体などの機能に影響を与えることにより神経毒性を誘発すると考えられる。最近我々は,有機スズ化合物による神経毒性の発現機序を解明する一環として,後根神経節細胞におけるテトロドトキシン抵抗性の電位依存性Naチャネルを対象として,同チャネル活性に対する4種類のスズ化合物の効果を検討した。本稿では,これらの結果を紹介するとともにスズ化合物による神経毒性の発現機序について考察する。
  • 武脇 義, 斉藤 英毅, 志水 泰武
    2002 年 7 巻 1 号 p. 61-68
    発行日: 2002年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    恒温動物は,一般に平均37℃の体温を維持していると理解されている。しかし,この中には冬眠動物という例外的な存在が含まれている。ハムスターやリスなどの小型哺乳類に見られる冬眠は,クマなどの大型哺乳類の冬眠に対し「真の冬眠」と呼ばれ,体温は5〜10℃まで下降する。この時期,冬眠動物たちの心拍数,呼吸数そして血圧も激減することが知られている。にもかかわらず,末梢の血管抵抗の値に関しては活動期のものとほとんど変わらないことが確認されている。この原因として,血液粘稠度が体温の低下により上昇し血管抵抗が維持されるというもの,あるいは血管平滑筋のアドレナリンに対する感受性が高まり収縮力が増強されるというもの,などが今までの認識であった。ところが最近の薬理学的および電気生理学的研究によると,このような末梢血管抵抗の維持には血管を支配する交感神経の伝達機構の増強や血管内皮細胞による弛緩機能の低下も重要な関わりを持っていることが明らかになってきた。本稿では,冬眠下動物の末梢血管抵抗の維持に関して,特に血管交感神経と内皮細胞の機能変化に焦点をあて,最近の知見を中心に考察してみたい。
  • 坪田 敏男, 瀧紫 珠子, 須藤 明子, 村瀬 哲磨, 野田 亜矢子, 柵木 利昭, 源 宣之
    2002 年 7 巻 1 号 p. 69-74
    発行日: 2002年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    人間の営みによって作り出された化学物質が,長期間分解されることなく環境に蓄積し,内分泌攪乱化学作用によって人や野生動物の生殖に異常をもたらすことが解明されつつある。内分泌攪乱化学物質には,DDTなどの農薬,PCB類などの工業化学物質,ダイオキシンなどの非意図的生成物,合成女性ホルモンとして使われたDESなどの医薬品などが含まれる。これまでに,アメリカ合衆国のアポプカ湖でのワニの個体数減少,ミンクやカワウソの繁殖率の低下,猛禽類の卵殻の薄化や孵化率の低下,イルカやアザラシの大量死,イボニシでのインポセックス,コイの雌雄同体化,ホッキョクグマの生殖能力の低下や間性といったさまざまな生殖異常が内分泌攪乱作用によって引き起こされている。日本においては平成10年度より内分泌攪乱化学物質およびダイオキシン類による野生生物への影響実態調査が開始され,さまざまな野生動物,とくに海獣類や猛禽類における内分泌攪乱化学物質の蓄積が認められた。今後さらに影響実態を究明し,内分泌攪乱化学物質問題を解決していく必要がある。
原著
  • 増田 隆一, 野呂 美幸, 梅原 千鶴子, 山崎 亨
    2002 年 7 巻 1 号 p. 75-80
    発行日: 2002年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    ミトコンドリアDNA(mtDNA)は一般的に種内変異および種間系統関係を分析する際の有用なマーカーとして知られている。この事実に加えて,私たちは,イヌワシmtDNAにおける49-50塩基(1ユニット)の繰り返し数が個体間で高多型的であること,さらに,この繰り返し配列部位が他のマーカーDNAとの併用により個体識別に有効となる可能性があることを明らかにした。この繰り返し配列はイヌワシmtDNAコントロール領域の3'側に位置し,そのユニット数とユニット内の塩基配列は個体間および個体内(ヘテロプラズミー)でも多型的であった。野生個体およびその繁殖個体のイヌワシ計21個体を分析したところ,ユニット内の2つの塩基サイトの多型性に基づいて,11種類のユニットが見出された。繁殖個体における2つの家系分析により,この繰り返し配列が次世代へ母系遺伝したことが示された。家族関係のないと思われるイヌワシ19個体から,16種類の繰り返し配列タイプを見出した。この繰り返し配列部位はmtDNAコントロール領域内の他の部位よりも速い進化速度を有していることが示唆された。
  • 林田 明子, 平賀 武夫, 遠藤 秀紀
    2002 年 7 巻 1 号 p. 81-85
    発行日: 2002年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    コープレーとウシ属の見島牛,ヤク,バンテン,ガウルの違いについて,頭蓋を用いた計測によって形態学的な比較を行い,検討した。見島牛においては,MFLに対するDHT, DFS, LFB, GBNの割合に有意差が確認された。ヤクにおいては,MFLに対するSCL, GLN, GTD, LFB, GBN, LDH(L), LDH(R)の割合に有意差が認められた。バンテンにおいては,MFLに対するDHT, GBN, GDH(L), GDH(R), LDH(L)の割合に有意差が見られた。また,MFLに対するGBNの有意差は,見島牛,ヤク,バンテンに共通して確認された。これらの結果から,見島牛の角鞘の先端間や頭蓋の幅は,他のウシ属に比べて相対的に小さいと考えられる。さらに,コープレーの特徴として,他のウシ属に比べて角鞘の先端間の幅が広いということが推察される。
研究短報
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