2025 年 75 巻 Special_Issue 号 p. 2025-005
大学に入学する学生は新型コロナの影響で十分な情報処理教育を受けられなかった。医療系養成課程の学生を対象に,AIを活用したアダプティブ・ラーニングを実践した。学生が提出したOffice系の課題や振り返りコメントをAIが分析し,学生が苦手とする内容を分析し,復習内容の優先順位を推薦する。次回の演習の冒頭で30分間の復習時間を設けたところ,前年度よりも学生の習熟度が高まった。また,不完全な課題は個別に再提出を指示した。これにより,情報技術の修得で確実な底上げができた。この実践は,学生の習熟度に応じた学習機会を提供し,情報処理の学習効果の向上と指導者の指導改善に貢献する。ポスト・コロナ社会における情報教育の新しい学習モデルを提案するものである。
近年の医療系養成課程に,デジタルネイティブ世代であると言われる学生が入学するようになった。しかし,彼らの中にはパソコンなどの情報機器の操作に不慣れな学生が多い。その理由として,彼らが中学生の時に発生した新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより,十分な情報処理教育を受ける機会が得られなかったこともある。その結果,大学入学後にOfficeの操作や情報リテラシーが不足している学生が散見され,大学での学修において不利な状況に陥り,学修成果に悪影響を及ぼす一因となっている。
この喫緊の課題を解決するため,短期間で情報技術のスキル向上を目指すため,AIを活用したアダプティブ・ラーニングを実践した。本研究では,学生の習熟度にや理解状況に合わせて最適化された復習を提供することで,情報リテラシーの習得を効率的よくできるように支援するプログラムの実践結果を報告する。
入学生からは情報処理演習の進め方や難易度に関して複数の要望が寄せられた。特に,パソコンの利用経験が少ない学生からは,基本的な操作や内容に対する詳細な説明を求める声が根強く,演習のペースを緩やかに設定するよう求める意見が散見された。また,授業の進捗状況については,受講者の理解度を考慮した穏やかな進行を求める要望が多かった。
これらの要望の背景には,新型コロナの流行でOfficeの操作を学ぶ機会が少なかったことがきっかけと,学生の情報処理能力に大きな個人差があることが挙げられる。Officeの操作を不得意と自己評価する学生がいる一方で,パソコン操作に習熟しており,ある程度自信があると自己評価する学生も存在する。興味深いことに,多くの学生が,ExcelやWordといったアプリケーションの操作に関して,自力での解決を試みる姿勢を示しつつも,困難に直面した際には指導者による支援を期待する傾向が見られた。これは,自律的な学習意欲と外部からのサポートへの依存という二律背反的な態度を示していると解釈できる。
これらの学生からのフィードバックは,パソコン初心者に対する丁寧な説明と,学習進度における緩やかなペース設定が強く望まれていることを示唆している。教育実践においては,このような多様なスキルレベルに対応し,個々の学生が最適なペースで学習できるよう配慮せざるを得ない。
情報処理演習は,指導者と学生が協働するAIと人的介入を組み合わせたハイブリッド運用が特徴である。情報処置演習では,指導者が提示する課題に取り組むことから開始され,学生は完成した課題をオンラインで提出する。この過程と並行して,学生は課題を通じて得られた知見や理解できなかった内容を含めた感想をリフレクションとしてオンラインで提出する。指導者は,提出された課題の完成度を評価し,基準を満たさない場合には再提出を求める。
本システムでは,リフレクションの記述内容と提出された課題の評価をAIに入力し,学生の理解状況や問題点として分析する。これにより,学生らが苦手とする操作や内容,学習理解におけるつまずきのポイントを客観的に特定し,可視化することが可能となった。AIは,この分析結果に基づき,前回の学習内容を復習するための優先度を考慮した復習プログラムを生成・提案する。
指導者は,AIが提案する復習プログラムを参照し,次回の授業冒頭30分間を復習時間として設定する。授業開始時に前回の演習理解状況の概要と今回復習する予定項目を1枚にまとめたものを学生に提示し,学習内容を明確に示した。
また,課題が未提出や再提出を求められた学生に対しては,個別に提出を促す人的介入を行った。この教育支援システムは,AIのデータ分析能力と,指導者による個別指導や対話といった人間の介在を組み合わせることで,単なるデジタルシステムに留まらない,より効果的な学習支援を目指した。
本研究の実践で,数理データサイエンスに基づくカリキュラムの目標を達成できた。これは,指導者がAIの分析結果を参照し,授業冒頭で前回の演習内容から重要な復習項目に焦点を絞った解説および演習を実施できたため,学習プロセスにおける効率性が向上したことに起因する。加えて,課題の未提出者および再提出を求められた学生への個別の人的介入が,学生の学習行動に対する動機付けとして作用し,行動変容を促進した。これらの要因,すなわちAIによるデータ駆動型分析と,指導者による個別指導・対話の統合は,効果的な教育支援システムとして機能し,最終的な目標レベルに到達する学生数の増加に寄与したものと考察される。
本報告は,医療系養成課程における情報リテラシー教育の課題解決に向けた,AIを活用したアダプティブ・ラーニングの実践を報告するものである。近年の入学生は,デジタルネイティブ世代と称される一方で,新型コロナウイルス感染症の影響により情報処理教育の機会が不足し,Officeの操作に大きな個人差が生じている。このため,学生からは丁寧な説明や緩やかな授業進行が強く求められていた。この課題に対応するため,学生の課題提出とリフレクションの内容をAIが分析し,個々の苦手分野やつまずきを特定するシステムを構築した。AIはリフレクションテキストの分析結果に基づき最適化された復習プログラムを提案する。指導者は,このAIの提案を参考にし,次回の授業の前半で復習を実施し,さらに個別の人的介入を通じて学生の学習を促した。これにより,多様なスキルレベルを持つ学生の学修成果の向上に貢献する可能性と学生の情報リテラシーレベルの質の向上が示唆された。