2022年7月18日に日本で採択された「IFLA-UNESCO公共図書館宣言2022」には,“公共図書館のサービスは,年齢,民族性,ジェンダー,宗教,国籍,言語,あるいは社会的身分やその他のいかなる特性を問わず,すべての人が平等に利用できるという原則に基づいて提供される”と明示されています1)。このようにあらゆる人々が自らの障害や特性,文化的・民族的多様性によらず情報を入手できる仕組みは,インフォプロの目指すべきところであると考えられます。しかし,現実には対応が追いついていない情報機関も少なからずあるものと考えられます。
そこで本特集記事は「あらゆる人々に情報を届けるために」と題し,図書館利用に障害がある方へのサービス(障害者サービス),多様な文化的背景を有する方に対応するサービス(多文化サービス)を取り上げます。
まず,特定非営利活動法人支援技術開発機構の河村宏様に,視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(読書バリアフリー法)について,今後目指すべき方向性を含めてご解説いただきました。
次に,専修大学文学部の野口武悟様に,日本の図書館における障害者サービスの歴史,現状と課題,展望についてご解説いただきました。そして,特定非営利活動法人支援技術開発機構の野村美佐子様に,通常の資料による読書が困難な方を対象としたアクセシブルな資料についてご解説いただきました。
最後に,日本図書館協会多文化サービス委員会の阿部治子様に,言語的・文化的マイノリティである外国人住民へのサービスを中心とした多文化サービスについてご解説いただきました。
読者の皆様におかれましては,本特集記事を通して障害者サービス,多文化サービスの動向を学び,実践する一助にしていただければ幸いです。
(会誌担当編集委員:青野正太(主査),赤山みほ,尾鷲瑞穂,森口歩)
1) “IFLA-UNESCO公共図書館宣言2022”.日本図書館協会.https://www.jla.or.jp/library/gudeline/tabid/1018/Default.aspx, (参照2024-09-05).
読書バリアフリー法の当初の目的と,同法施行後5年間を経た現在の到達点を踏まえて,「すべての人が読み書きできる世界」(我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ)を2030年までに日本で達成するために必要な取り組みを検討する。特に読書バリアフリー法第12条に着目して,日本におけるアクセシブルな電子書籍とアクセシブルな電子図書館サービスの開発と普及のための留意点を明らかにする。
図書館において「読書バリアフリー」は,「図書館利用に障害のある人々へのサービス」として実践されている。この「図書館利用に障害のある人々へのサービス」の略称が「障害者サービス」であり,障害者だけに対象を限定したサービスという意味ではない。本稿では,日本の図書館における「障害者サービス」の歴史,現状,展望を述べる。「障害者サービス」の歴史的な展開や実態には館種による違いが大きいため,公共図書館に焦点を絞って論じる。
国連障害者権利条約を基礎とする「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法)と「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(読書バリアフリー法)によって障害者が等しく読書の機会を享受することが改めて法律で保障された。図書館におけるアクセシブルな情報と資料の提供は,必要な知識へのアクセスを保証するために必須のサービスである。日本の著作権法第37条等による著作権の制限によって提供されているDAISY等のアクセシブルな代替資料が,利用者にとってどのように有効であるかについて論じる。また,コロナ禍で重要性を増した電子書籍の有効性と,DAISYのすべての機能の移転を完了したアクセシブルなEPUB規格の電子書籍の可能性についても言及する。
本稿では,まず,言語的・文化的マイノリティである外国人住民へのサービスを中心に,図書館における多文化サービスの変遷を辿り,重要な事例を紹介する。次に,筆者も委員を務める日本図書館協会多文化サービス委員会がまとめた「多文化サービス調査2015年報告書」から明らかになった日本の図書館の課題を検討する。最後に,多文化社会における図書館サービスの強化に向けて,1)読書バリアフリー法への対応,2)「やさしい日本語」による日本社会の変容促進,3)外国人住民のウェルビーイングのための司書のコーディネート力の重要性を示唆する。
2024年2月に内閣府が示した「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」や同年3月から公募が開始された「オープンアクセス加速化事業」は,国による機関リポジトリを活用したオープンアクセスの推奨ともいえるような動きである。これらを受けて,機関リポジトリは,その運営の見直しや位置づけの再定義が求められている。本稿では,名古屋大学附属図書館における機関リポジトリへの論文及び研究データの登録の実際について紹介する。また,関連する取組みとして,機関リポジトリの広報及び研究データ利活用の取組みを紹介する。さらに,国の方針に対応するための今後の課題について述べる。