情報の科学と技術
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技術文献分析に基づくSFロボットの実現可能性の検証
不登校の子どもをサポートする友達ロボットをテーマに
木下 隆志岩下 若菜土屋 天身
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論文ID: 2024-016

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発表概要

不登校の子どもをサポートする友達ロボットの実現可能性について,特許を中心とした技術文献分析に基づき検証した。友達ロボットに必要な要件を設定し既存製品を分析した結果,能動性/自主性,共感性が課題ということがわかった。直近3年の特許調査によると,能動性/自主性,共感性について適合する出願は1件だった。しかしロボットの共感性に関する出願は増加しており,将来的には友達ロボットが実現すると考えられる。

1. はじめに

本研究は,SF小説に登場する,自宅学習の子どもを友達のようにサポートするロボットに着想を得て始まった。社会に目を転じると,不登校の小中学生はコロナ禍を通じ増加傾向にある1)中で,オンライン授業に関わる環境整備2)やオンライン授業選択制の検討3)が進んでいる。将来は登校に代わり自宅学習を選べるなど,学び方が多様化する可能性が示唆された形である。こうした環境下で孤立する子どもを支える友達ロボットに必要な要件は何かを分析し,現状の技術開発はどのレベルにあるかを調査した。

2. 「友達ロボット」と思われる既存製品の分析

友達ロボットの要件を明確にするため,コミュニケーションロボットの製品情報を収集した。友達ロボットの要件を①能動性/自主性があること(ロボットが人間に自ら話しかけるなど),②触れること(スマートフォンに搭載される音声アシスタントなどは対象外),③可愛らしいこと(利用者が感情移入できること),④共感性があること(人間の気持ちを汲み取ってくれるなど)の4要件とした。収集した製品情報のうち,4要件をある程度持つと思われるロボットは「aibo(ソニーグループ株式会社)」,「Charlie(ヤマハ株式会社)」,「LOVOT(GROOVE X株式会社)」であった。3体のロボットについて,特許情報などから4要件にどれだけ適合するかを分析した結果,3体は自分の意志があるかのように気まぐれな行動をとったり,ユーザの感情を一定程度推定したりすることができるが,①能動性/自主性,④共感性の面で技術的に途上にあることがわかった。

3. 「友達ロボット」を実現するための技術の分析

次に,既存製品に不足している能動性/自主性,共感性について技術開発がなされているかについて特許情報を調査した。母集合467件から特開2023-162161(出願人:株式会社ロボマインド)を得た。この出願は「相手を思いやる」,「人と同じような心を持つように振る舞う」制御をする人工知能に関するものである。このように能動性/自主性,共感性を課題とする出願はあるものの,母集合中で適合する出願は1件となり,本研究で定義した友達ロボットは実現されていないことがわかった。

また,学術文献(論文)を対象に「ロボット×共感」,「ロボット×友達」等のキーワードで検索したところ,共感性について言及している文献が散見された4)。研究上課題となっているものの,やはり実現には至っていないものと考えられる。

4. おわりに

既存製品,特許・学術文献の調査分析により,友達ロボットはまだ実現されていないことがわかった。今回調査対象とした母集合467件の分析結果から,共感性とその同義語を文中に持つ出願は近年出願比率が高まっていることも確認できた(図1)。現段階では友達ロボットは数々のSF作品に描かれている夢の存在であるが,不登校の小中学生の増加といった社会課題や技術開発状況から,将来的に実現されることが大いに期待されるものと考えられる。

図1. 自律的および共感性を課題とする出願の動向分析(自律的:自律と能動的を含む集合 共感性:共感と相互理解と同調を含む集合)

5. 謝辞

本研究は,一般社団法人情報科学技術協会(INFOSTA)主催の3i研究会の研究の一環として行った。本研究では,(株)ジー・サーチ様からJDreamⅢおよび JDreamⅢ Innovation Assist,中央光学出版(株)様からCKS Web,インパテック(株)様からパテントマップEXZをご提供頂いた。また,3i研究会のグループサポーターの佐藤貢司氏よりご指導を頂いた。ここに改めて深謝の意を表する。

参照文献
 
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