関西医科大学雑誌
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蛋白投与の癌転移におよぼす影響
その1:Zein,Gelatin投与の癌転移におよぼす影響に関する実験的研究
川岸 弘賢
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1967 年 19 巻 3 号 p. 198-217

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抄録

蛋白投与が,腫瘍摘除後の転移再発にいかなる影響をおよぼすものであるかを検討するために,著者は,投与蛋白源として栄養価も低く,悪質といわれるZein,Gelatinなどについて以下のごとき実験的検討を行なつた.すなわち,被験飼料として,18% Zein,18%Gelatinなどを蛋白源としたものと,さらにcontrolとして18%Caseinを蛋白源とした固型飼料を錠剤の型で作成の上,それぞれをisocalroicになるように投与の上,つぎの各実験を行なつた.
まず,Agostinoの方法で,人間類似の盲腸腫瘍を作成し得たratを,移植後11日目で,Nembutal麻酔下に開腹の上,盲腸腫瘍摘除を行ない,術後は,それぞれ各飼料で飼育の上,術後4週目までの転移,再発の状況を比較検討した.結果は,18% Zein食飼育群において,腫瘍の転移および局所再発率が,もつとも高率かつ高度であつた.これについでは,Casein食飼育群であつたが,Gelatin食飼育群では,もつとも低値を示した.
そこで,これらの蛋白投与と腫瘍再発との関係をより詳細に検討するために,あらかじめ1週間にわたる各飼料で飼育を行なったSD系ratに,Walker腫瘍を皮下に移植し, 移植後1 0 日目で,Nembutal麻酔下に腫瘍の摘除を行ない,術後4週目までの,局所再発状況を各飼料群間でそれぞれ比較検討した.結果は18% Casein食飼育群においてもっとも高率かつ高度の再発状況を示したが,Gelatin食飼育群が,これにつぎ,Zein食飼育群では,もつとも低い値を示した.
そこで,門脈路による肝腫瘍形成に,これらの各蛋白投与がいかなる影響をおよぼすかを比較検討するために, つぎのような実験を行なつた. すなわち, 開腹1 週間前より,各飼料でそれぞれ飼育の上,腹水肝癌AH130を500万個づつ, 門脈内に注入した. 術後も術前と同一の各飼料で飼育の上, 門脈内注入後2週目までの, 肝における腫瘍形成状況を比較検討した結果,18% Casein食飼育群でもつとも高率かつ高度のhepatic takeを示し,これについでは,Zein,Gelatinの順であつた.
つぎに,各蛋白食投与時の転移促進機序を解明する目的で,以下のような実験を試みた.すなわち,腫瘍細胞相互間の接着力が,各飼料(Gelatin食,Zein食,Casein食)投与によつて,どのような消長を示すかを知るために,山田の方法にしたがつて,腹水肝癌AH601,AH7974などを移植したWistar系ratについて,経日的に検討した結果,各飼料飼育群間で,いちぢるしい差異は認められなかつた.
ついで,腫瘍の粘着性を,Berwick and Comanの遠心法にしたがつて,各飼料で飼育を行なつたAH13移植ratについて, 経日的に検討したところ, 18%Gelatin食飼育群では,移植後日を経るにつれて,腫瘍細胞の粘着性も,漸次低下傾向を示したが,18% Casein食飼育群では,漸次亢進傾向を示した.18% Zein食飼育群では,変化は認められなかつた.
以上の諸実験結果から,欠乏乃至は欠除必須アミノ酸も多くかつアミノ酸配合比も不適当で栄養価も低いといわれるGelatin,Zeinなどのいわゆる悪質の蛋白源を投与した際にも,腫瘍摘除術後の転移再発などの面では,満足すべき低下傾向は得られなかつた.
したがつて, 投与蛋白の良し悪しは, 術後の体力回復,生存率などには敏感に反映されるが,転移再発との聞には必ずしも一定の関係はみられないことが判明した.

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