コストの変動に関連する近年の実証研究において,売上高が減少する場合のコストの減少率の絶対値は,売上高が増大する場合のコストの増加率の絶対値よりも小さいという現象が広く観察され,この現象は,コストの下方硬直性と呼ばれている.コストの下方硬直性は,将来的に売上高が回復すると予測する経営者が,経営資源を温存するため意図的にコストを負担することから生じる現象であると考えられている.本研究では,コスト変動に影響を与える要因としての売上高予測,その下でのコスト変動,利益の関係について想定される仮説の検証を行う.具体的には,予測が実績を上回るという意味での楽観的な売上高予測が行われた場合に,将来的な売上高の増加から十分な利益を獲得できないことを検証する.この作業を通じて,コスト変動を通じて利益に影響を与える要因としての売上高予測の重要性に関する実証的証拠の提示を行う.