2014 年 22 巻 1 号 p. 3-25
本研究は,従業員満足度,顧客満足度,および財務業績の関係に関わる検証を,ホスピタリティ産業の一つであるホテル業を営む日本企業A社の,6年間に及ぶデータを用いて検証した.このような一連の関係を扱った研究は会計学の分野では非常に少ないために,マーケティング論および組織論まで含めて幅広く先行研究をレビューした.学際的な視点から見た本研究のオリジナリティは,(1)従業員と顧客が直接に相互作用する代表的な業種であるホスピタリティ産業において,(2)6年間もの長期間にわたって収集したデータを用いて,(3)従業員満足度→サービスの質→顧客満足度→稼働可能客室当り粗利益という一連の関係を同時に分析し示したことである.このことは,一連の関係を同時に明らかにした研究が限られている中で,実務がそのような関係を重視することの裏付けを与えたということだけでなく,サービス・プロフィット・チェーンやバランス・スコアカードといった多様な業績指標を含むフレームワークの妥当性を示す一つの実証的証拠を提示したという点で,一定の意義があると思われる.