2015 年 23 巻 2 号 p. 33-44
トヨタ生産システムに代表される製造業の経営システムが,中長期視点の重視によりその優位性を実現する一方,株主価値経営の登場と興隆を契機に,企業経営における利益管理の短期化が進行している.株主価値経営が利益管理の短期化に繋がる背景の1つとして,資本市場における株式価値評価の理論と実務がある.すなわち,割安株(低PER株)やサプライズ効果(好決算)が期待される株式を探求する機関投資家の日常的な投資行動が,当該投資家と企業との相互作用としてのインベスターリレーションズ活動を媒介として,企業経営における利益管理の短期化に繋がる.このような中長期と短期のスキーマの対立関係(逆機能)を経営システムにおいていかに統合関係(順機能)に導くかは,現代の企業経営とりわけ製造業のマネジメントにとっての重要課題の1つであり,そのためのアプローチとして,①新たな株式価値評価指標としての潜在株価収益率,②デュアルモード管理会計モデルの2点が展望される.