個別原価計算の伝統的方法には,以下で示すような特性が存している.
第一の特性は,ある製造指図書で指示された生産数量の大部分が完成品となり,一部が仕掛品である状態で原価計算期末をむかえた場合であっても,それら全てが仕掛品として取り扱われていることである.第二の特性は,減損費を独立に把握しないことがあげられる.また第三の特性は,仕損品を補修した場合に,補修指図書に集計された原価を当初の旧製造指図書に賦課させることにより,補修活動を受けていない良品にも直接に補修費を負担させる方法をとっており,補修が必要となった仕損品そのものの原価とそれに対応する補修費が把握されないことである.第四の特性は,仕損品を補修せずに代品製作する場合に,当初の製造指図書で指示された生産数量のうちの一部が仕損品となったケースと,全部が仕損品となったケースとで,別々の計算方法を採っており,それらの方法が一貫しないことである.さらに第五の特性として,製造指図書で指示された生産数量のうちの一部が仕損品となり代品製作する場合に,代品製造指図書に集計された原価から仕損品評価額を控除したものを仕損費としていることがあげられる.
そこで本研究は,仕損と減損が発生する状況において,特定製造指図書に原価をあとづける場合に,上述の5つの特性を検討し,それらが問題点となるような状況を明らかにして,正確に製品原価を測定し,かつ有効に原価管理を行うために,個別原価計算に非度外視法を適用した新しい測定方法を提案する.この方法では,個別原価計算に進捗度の概念を導入し製造指図書ごとに完成品換算量を用いて,製造指図書に集計された原価を完成品原価,期末仕掛品原価,仕損品原価,そして減損原価のそれぞれに分離計算し,因果関係の原則に基づいて負担計算(追加配賦)を行う.その結果,正常仕損費と正常減損費を正しく製品原価に算入することが可能になる.