トヨタ自動車(株)の元生産調査部部長の田中正知氏が提案する「Jコスト」について考察する。「Jコスト」は,棚卸資産など流動的でない資金を一定期間保持することによる機会損失を適切に評価することを意図し,そのための新しいコスト概念として提案されたものである。また,「Jコスト」を用いて会社の評価指標が定義され,それらを含めて「Jコスト論」と呼ばれている。しかし,ここで定義される評価指標を棚卸資産に適用するとき,その解釈に関して重大な疑義がある。本研究では,この点について議論するため,「Jコスト」の意味,ならびに棚卸資産に関する「収益性評価指標」について,数値例を用いて論理的考察を行い,「Jコスト論」の問題点について論究する。