フレデリク・ショパン(1810–1849)の作曲によるバラードには、六度和音が曲の構造上経過的に用いられていることがサムスンらの先行研究によって指摘されている。本稿ではショパン作品において特徴的であるとみられる短調の六度和音について、このバラードも含めそれ以外のピアノ作品においてもその使用法や役割を分析・考察した。短調の主和音と六度和音は構成音のうち2音が共通し、異なるのは主和音の第5音と六度和音の根音であり、その関係は短2度(半音)である。ショパン以前から短調の六度音や六度和音は、主和音との関係において非和声音あるいは装飾として重要な役割を担っていたが、ショパンは短調の六度和音を、主和音との交代や導音転換的あるいは融合的に使用した他、曲の冒頭や終止での使用、また転調や展開の手段としても使用し、その用法は曲構造へもかかわる。また短調主和音と六度和音の表現上の特徴として、六度和音が主和音に対して強弱法上、必ずしも「より強くはない」ことも認められた。