2022 年 20 巻 p. 93-102
楽器および演奏に関する研究は数多く蓄積されてきたが、その中間に存在するとも言える楽器小売店は主題的に考察されることが稀であった。本稿は楽器店が議論の俎上にのぼらず等閑視されているという問題意識にもとづいて、東京・神田の楽器店3店を対象として事例研究を行い、音楽表現実践にとって楽器店が持つ意味を考察する。ポピュラー音楽産業論における「媒介モデル」や、メディア理論における「モノのメディア論」を理論的な土台としつつ、楽器店の中で行われている具体的な実践を、インタビュー調査を中心として詳らかにする。楽器の販売や調整・リペアをめぐるやり取り、あるいは試奏の実践、そして近年のインターネットの介入など、楽器店をめぐる人やモノの関わりに注目する。検討の結果、楽器店を音楽表現を規定し方向づけるメディアが集積する「メディア・ハブ」として位置づけた。