抄録
本居長世による童謡《十五夜お月さん》と、江戸期にルーツを持つわらべ唄《うさぎ》には、深い関連性が見いだせる。標題である「十五夜」とそれに関する事柄については、国文学や民族学などの分野で多くの知見が発表されてきたが、音楽表現学の分野では、その知見を共有するには至っていない。そこでそれらの知見について、原典に遡り確認作業を行う。そして「十五夜お月とは/観月文化の開始/時代による変化/月とうさぎの関係性/祈りの対象としての月」を整理する。次に野口雨情にとっての「月」について論考する。それらを通じて、作品が発表された当時の人々の受け止め方を考察し、本曲歌唱表現への新たな視点を提示する。次に本居の童謡作曲に際しての理念は、自身が記した文言の中にのみ残されている。その文言と楽譜を照合し、音楽構造の考察を加え、その理念を譜例により可視化し確認する。また他作品の楽譜とも照合し、本居の童謡作曲上の特徴を明確にして、作品演奏上の新たな視点を示す。