抄録
本稿では、中田喜直作曲、寺山修司作詞の歌曲集《二人のモノローグによる歌曲集 木の匙》に関して、その成立の経緯と未発表曲〈雨傘〉が不採用となった経緯の解明に資する資料の提示を主な目的とした。入手可能な活字資料等を手がかりに全構成曲を概観したところ、調選択の観点では円環構造の成立は判断できないものの、詩の内容の観点では円環性が確認できることや、最終曲においてモティーフの再現が見られる点から、連作歌曲としての連関性を確認するに至った。また、信頼の置ける情報源として、近親者である中田幸子氏にインタビュー調査を実施し、当時の中田の様相として、《木の匙》の創作には相当の年月を要したこと、中田が寺山の詩を好意的に捉えていたこと、構成曲の選定や曲順の検討が発表直前まで行われたことを確認した。そして未発表曲〈雨傘〉の存在と、この楽曲を含んだ直前構想と発表された決定稿の構成曲や曲順の違いを提示し、その比較では連作歌曲としての詩の文学的な結末が全く異なるものになることを報告した。