音楽表現学
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国民学校発足期の師範学校における鑑賞指導
『標準師範学校音楽教科書』の分析と香川県師範学校の事例を中心に
鈴木 慎一朗
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2005 年 3 巻 p. 31-47

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抄録

本稿は、「師範学校教授要目」やそれに基づいて作成された教科書における鑑賞指導に関する内容を概観した上で、国民学校発足期(1941〜45年)の香川県師範学校における事例を中心に鑑賞指導の様相を検討しようとするものである。判明した点は以下の通りである。

1)1943(昭和18)年の「師範学校教科教授及修練指導要目」では、鑑賞指導の方法として「演奏、音盤、放送等」が挙げられ、日本音楽を重要視した内容になった。しかし、これを受けて作成された国定教科書である『師範音楽本科用巻一』には鑑賞教材は掲載されていない。また、戦時下ということもあり、実際には「師範学校教科教授及修練指導要目」の内容は完全実施されなかったと考えられる。

2)1931(昭和6)年の「師範学校教授要目」に基づいて作成された黒沢・小川編『標準師範学校音楽教科書』(1938) では59曲の「鑑賞用名曲」が掲載されている。ここでは西洋の名曲が中心で、ロマン派の音楽が74%を占める。

3)香川県師範学校の鑑賞指導では、『標準師範学校音楽教科書』に基づき、教師の独唱を用いた鑑賞とSPレコードを用いた鑑賞の方法が採られていた。昭和10年代に普及した交響・管弦楽曲のSPレコードも使用されている。授業の進め方については、田辺尚雄の提唱する「解説法」と「静聴法」のどちらかで進められていた。また、生徒たちの反応は、師範学校入学前には鑑賞指導を受けていなかったことも影響し、評判はよかった。

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© 2005 日本音楽表現学会
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