2026 年 5 巻 2 号 p. 79-87
本研究は,S-Dロジックにおける制度的転回を踏まえ,制度を形成・維持・変容する個別アクターの役割を明らかにすることを目的とする。S-Dロジックは,価値創造を資源統合およびサービス交換のプロセスとして捉え,制度や制度配列を資源統合を可能にする条件として位置づけてきた。しかし,制度へ働きかける個別アクターについては十分な検討がなされていない。そこで本研究では,制度的起業家論および制度的ワーク論を整理し,制度へ働きかけるアクターの特徴を明らかにする。そのうえで,これらの知見をS-Dロジックにおける資源統合者概念と接続することにより,制度的ワーカーという概念を中心とした分析枠組みを開発する。さらに,この分析枠組みをアニメ聖地巡礼に適用し,聖地巡礼者による資源統合が,自己または他者のベネフィットを実現する実践であると同時に,結果として価値共創を支える制度的条件の形成・維持・変容にも関与することを明らかにする。以上の考察から,制度的ワーカーは資源統合者の一類型として位置づけることが可能であり,S-Dロジックにおける個別アクターの役割を再評価する新たな理論的視座を提供する。