抄録
計画段階で予見可能ではなかったステークホルダの出現や既出のステークホルダが開発フェーズの進捗に従ってその性質を変化させることがプロジェクトの成否に与える影響は大きい.ISO21500:2012やPMBOK Guideでは,予実の差異を監視・コントロールのプロセスによって知り,計画を更新することで適正なマネジメントを維持しようとしている.このようなプロジェクトの運用段階におけるPDCAサイクルの実施は,プロジェクトマネジメントにおける計画による戦略性と監視・コントロールによる戦術性をバランスうまく実現している.ステークホルダのマネジメントはプロジェクトに潜むペリルやハザードと,その延長にあるリスク項目の発見,対応を行なうリスク・マネジメントの手続きに似ている.この点からも類推可能であるが,ステークホルダの変化が発生した後に予実の差異に対応する戦術的な手法では,対処に難しい事局面も存在する.したがって,計画段階でできる限り多くのステークホルダの存在とその性質を知り,戦略的アプローチを採ることが望ましい.当然そこにはフェーズの途中で発生するステークホルダを含めるべきだし,フェーズの進捗による既出ステークホルダの性質の変化も考慮されるべきである.本研究では,開発プロセスに従ったステークホルダの出現や既出ステークホルダの性質の変化を考慮することが可能な組織的な取組みに活用可能な仕組みと可視化に向けたチャートの提案を行なうことで,ステークホルダの挙動を明示的に取り扱う戦略的アプローチを提案した.