順天堂醫事雑誌
Online ISSN : 2188-2126
Print ISSN : 2187-9737
ISSN-L : 2187-9737
第31回都民公開講座《高齢者と膝関節痛》
変形性膝関節症の病態・診断・治療の最前線
石島 旨章久保田 光昭寧 亮劉 立足金子 晴香二見 一平定月 亮羽田 晋之介ANWARJAN YUSUP清村 幸雄平澤 恵理斎田 良知高澤 祐治池田 浩黒澤 尚金子 和夫
著者情報
ジャーナル フリー

2013 年 59 巻 2 号 p. 138-151

詳細
抄録

運動器障害によって介護が必要な状態や要介護リスクの高い状態を表す「ロコモティブシンドローム (ロコモ, 運動器症候群) 」が提唱され, 変形性膝関節症 (knee osteoarthritis, 以下, 膝OA) はその代表疾患である. 膝OAは, 関節軟骨の変性と摩耗を病態の首座に, 関節内構造体である滑膜や軟骨にも障害が及び, 関節の形態と機能を障害し, 歩行時痛などにより移動能力が障害され, 最終的には生活の質 (activity of daily living;ADL) を著しく低下させる, 緩徐であるが進行性の疾患である. その罹患患者数は, 超長寿化を迎えた本邦において約2,500万人にものぼり, そのうち約800万人が膝痛と共存しながら過ごしている. 近年, 病態については, 従来のリスク因子に加えてメタボリック症候群の罹患との強い相関などが明らかとなっている. また, このように高い罹患率にもかかわらず, 日常臨床ではその診断や治療効果の判断を, 単純X線にのみ頼っているが, MRIや関節マーカーを用いることで, 病態の把握が進み, さらに, 臨床現場においても医療者に患者情報の増大をもたらす可能性を秘めている. 数ある治療法のなかに疾患修飾型治療法は存在せず, すべて疼痛緩和を目的とした症状緩和型治療法でしかない. 近年, 膝OAに対する薬物治療に, 弱オピオイドが使用可能となり, 治療選択肢が広がった. また, 外科的治療法では, 膝OAに対する関節鏡下手術の無効性が明らかとなる一方, 人工膝関節置換術の術後成績は飛躍的に向上している. さらに, 脛骨高位骨切り術に用いる内固定材の進歩により, その適応と信頼性が高まっている. したがって, 外科的治療法にも選択肢の幅が広がり, ADL低下を招くほどの末期膝OAにおいては, 不必要に保存療法を長引かせることなく, 外科的治療法を選択すべきである. しかし, 現時点では各種治療法の重症度別の使い分けなどは定まっておらず, エビデンスに基づいた治療法の選別と秩序だった使用方法の確立が求められている.

著者関連情報
© 2013 順天堂医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top