抄録
医療処置や手術は身体面だけでなく心理面にも作用を及ぼし、恐れや不安は処置自体にも影響を及ぼすことがある。
医療処置の前に不安が増大していると、抗不安剤の必要量が増え、それが転じて医療費や副作用の増加をまねくこと
にもなりかねない。不安や苦悩は疼痛感受性を増大し、術後の不充分な疼痛管理は回復期の合併症を増加させること
もある。音楽療法の支援的で柔軟なアプローチが患者の感情的な状態をポジティブにし、苦悩を軽減することで医療
処置そのものにも良い影響を及ぼす可能性がある。手術中や術後の疼痛の軽減、手術や医療処置の前の不安や苦悩
の軽減などのために、音楽の聴取を構造的に行うことにはエビデンス(根拠)がある。患者が覚醒していて、痛みを伴
う不安の大きい処置を受ける際には、音楽療法士が患者とより相互的にかかわる柔軟な音楽療法のアプローチの方が
もっとよいかもしれない。生演奏(ライヴ)の相互的な音楽療法のアプローチによって、訓練された音楽療法士が音楽
や治療的プローチを患者の必要性に合わせて変化させるには、高度な臨床的技量を必要とする。音楽療法士、医師、
看護師、その他のメンバーのチームが総合的に共同することで、音楽の治療的使用が患者の入院に関わる全てのレベ
ルで、最適な状態で提供されるのである。(本論文の日本語訳の全文は、北大路書房「医学的音楽療法 基礎と臨床」
に掲載されています。)