抄録
卵丘細胞は,卵子を直接覆う細胞層を形成し,その性質は卵子分泌因子により制御されている.一方,卵子もまた卵丘細胞からギャップジャンクションを介して送られるグルコース代謝物にエネルギー生産を依存している.この相互依存関係は,卵子の発達に必須であることが遺伝子欠損マウスの解析から明らかとなっている.排卵期においては,LH刺激を受けた顆粒膜細胞が発現・分泌するEGF like factorが卵丘細胞に作用する.EGF受容体の下流にはERK1/2があり,このシグナル伝達系は,卵丘細胞の膨潤と卵子の成熟に必須である.卵丘細胞の膨潤は,ヒアルロン酸の蓄積によるが,受精過程でヒアルロン酸が分解されることが卵丘細胞のToll like receptorを活性化させ,ケモカイン類の分泌を介して精子の受精能獲得を誘起させる.このToll like receptorにより,卵丘細胞は細菌感染を感知し,感染防御機構を作動させるという自然免疫能を有する.さらに,卵丘細胞が発現する因子が,卵子の減数分裂再開の調節を行っていることも明らかとなってきた.このように,卵丘細胞は卵子の発達,成熟,受精を制御する重要な機能を担っている.