本稿は、日本企業における「協働」の変容と、それに伴う企業倫理の課題を、ドイツの「オルドヌンク倫理学(Ordnungsethik)」の視点から理論的に検討するものである。従来の日本的経営は、終身雇用や年功序列を基盤とした画一的・固定的な協働を特徴としていたが、近年では雇用形態の多様化、グローバル化、Z世代の台頭、テクノロジーの進展などにより、協働のあり方が流動的かつ複雑なものへと変化している。このような中で、企業不正や企業不祥事のあり方も変化する可能性がある。実際、近年の企業不正の学術的な議論においては、従来のように不正を合理的・意図的に考えるだけでなく、無意識的・構造的な企業不正に関する議論も増加している。以上を踏まえ、本稿では、企業倫理の理論的枠組みとして、ホーマンらによって展開されたオルドヌンク倫理学を取り上げる。オルドヌンク倫理学は、個人の倫理意識ではなく、制度やルールなどの「秩序」によって倫理的行動を促すことを重視し、「ジレンマ構造」に基づく意図せざる帰結としての不正を防止することを目指す理論である。ただし、オルドヌンク倫理学は組織の動態性やプロセス性を十分に考慮しておらず、企業不正の多様性を捉えるには限界があるため、本稿ではオルドヌンク倫理学に加えて、バーナード、ニックリッシュ、ルーマンらの組織論を参照し、協働を動態的・プロセス的に捉える視点を導入する。これにより、オルドヌンク倫理学の制度志向と組織論的アプローチを接合し、新しい協働のもとで発生する企業不正に対する理論的対応を試みる。最終的に、経営者が組織の複雑性を理解し、倫理的な「観察」と「区別」を通じて、企業内外の規範を調整することが、新しい協働時代における企業倫理の鍵であると結論づける。