MACRO REVIEW
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中国四川省・都江堰と岷江流域の水文・地形環境
佐藤 照子
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1998 年 11 巻 1 号 p. 7-17

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抄録

都江堰は長江支流・岷江の奔流にある大型多目的水利施設で、四川省の首都成都の北西600kmに位置する。その建設は春秋戦国時代にさかのぼる。現在まで二千二、三百年という長い歳月、施設を放棄せざるを得ないような河川の状態を引き起こさず、その機能を維持してきたばかりか、今日は一層発展して中国でも有数な水利潅漑網を形成している。本報告では、都江堰が長期間、その機能を維持し、存在し続けられた主要な要因について水文・地形環境の視点から述べられている。 第一の要因は、岷江の水量の豊かさにある。岷江流域はモンスーンの影響を受け、潅漑期には河川に十分な水量があるとともに、年平均比流量は2.18(m3/sec・100km2)と大きく、集水面積も23,000km2と広いので総流出量も多く、時代の要請に応じて潅漑区を拡大することが出来た。 第二の要因は、冬に岷江の渇水比流量が0.5(m3/sec・100km2)と小さくなり、施設の存続に不可欠な維持管理作業を容易にしていたことである。 第三の要因は、都江堰が扇状地の河川特性や地形の特徴を巧みに利用し、自然の土砂と水の循環を活かす構造をしていることである。このため、都江堰の建設が著しく河相を変化させ、取水困難な状況を引き起こすことはなかった。また、自然の力を利用した巧みな土砂管理は、施設の維持管理を容易にしていた。 第四の要因は、李冰の遺訓を守り、川底の浚渫や分水工・護岸等の修復を営々と行い、大切な施設を守り続けてきた人々の努力の存在である。この補修工事を支えた主要な要因の一つが、現場で入手できる材料で、十分な強度を持つように工夫、洗練された土木工法であった。

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© 日本マクロエンジニアリング学会
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