抄録
本稿の目的は生物存続の条件となっている多様性の原則および生物存続の要件である物質の循環を稲作に継承しているブータンの多品種栽培および有機栽培の実情を考察し、その意義を検証することにある。本稿は2005年年7月26日から30日までブータンでTARF(アジア稲文化機構)が行った3件の米生産者の聴き取り調査をデータベースとした。本考察において、多品種・有機栽培方式の継承がその地域の独自の自然的文化的要件によるところを示唆されている。持続可能な社会の前提である生物多様性の原則を維持する必要性に加えて、気候変動、自然災害および人為的営みの結果増大する被害が世界的に頻発している中で、それに備える意味においても慣行の単一・化学物質多投与ではなく、多品種・有機栽培を真剣に考え、実行に移す必要性があると結論される。