2023 年 101 巻 3 号 p. 191-207
2019年台風第10号(Krosa)はフィリピン東部で、同時に存在した台風第9号(Lekima)の約1400km東で8月6日に発生し、8月15日には本州西部に上陸した。Krosaの発生直後を初期値とする現業全球モデルによる予報は大きな進路の不確実性を示し、Krosaの実際の進路の予報に失敗していた。本研究では、この大きな不確実性の要因について28km格子の全球非静力学モデルを用いた101メンバーアンサンブル予報実験により調べる。8月6日1200UTCを初期時刻とする実験は、大きな不確実性を示した。アンサンブルラグ相関解析は、進路予報誤差が大きいメンバーでは進路予報誤差が小さいメンバーに比べて北西太平洋亜熱帯高気圧がより東方へ後退していることを示した。Krosaの進路予報誤差が大きいメンバーはKrosaとLekimaとが互いに250km接近し、予報開始から36時間後にはKrosaが実際よりも北へ速く移動した。Krosaの進路予報誤差が小さいメンバーは2つの台風は互いに50kmしか接近せず、北進速度は実際と同程度であった。台風中心に相対的な合成図解析は、Krosaの進路予報誤差が大きなメンバーでは、初期時刻においてKrosaの水平方向の大きさがより大きく、かつ予報期間においてもその傾向が見られることを示した。Krosaの予報誤差の大きなメンバーでは、この水平方向の大きさの差により、2つの台風間のより強い相互作用と北西太平洋亜熱帯高気圧の後退とが引き起こされ、結果としてより速い北進へつながった。