気象集誌. 第2輯
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101 巻, 3 号
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Notes and Correspondence: Special Edition on the Frontier of Atmospheric Science with High-Performance Computing
  • 升永 竜介, 宮川 知己, 川崎 高雄, 八代 尚
    2023 年 101 巻 3 号 p. 175-189
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/01
    [早期公開] 公開日: 2023/02/07
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     高解像度大気海洋結合モデル実験は季節間から季節スケールを対象とする予測に対して主要な手法である。しかしながら、モデルの構成要素間のエネルギーバランスが取れていないことによる海面水温ドリフトは不可避であり、それは予測スキルを低下させる可能性がある。本研究では、季節スケールの水温ドリフトを軽減するためのフラックス調節を実装し、その性能を事例解析を通じて調査した。本研究には、非静力学正20面体格子大気モデル(NICAM)とCCSR海洋コンポーネントモデル(COCO)を用いた結合モデル(NICOCO)を用い、大気モデルと海洋モデルの水平解像度をそれぞれ14km、0.25度とする設定で冬季の40日積分を実行した。フラックス調節を行わない場合には、熱帯、亜熱帯、そして南極域で40日間で典型的に-1.5度から2度程度の水温ドリフトを示す。一方、本研究で実装したフラックス調節は、その海面水温ドリフトを十分に軽減できることが確認できた。さらに、ラグ相関解析を通じて、フラックス調節下においても大気海洋相互作用のプロセスは適切に表現されていることが示唆された。フラックス調節が実装された高解像度結合モデルは季節間から季節スケールの予測を向上させることが期待される。

Article
  • 中野 満寿男, Ying-Wen CHEN, 佐藤 正樹
    2023 年 101 巻 3 号 p. 191-207
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/01
    [早期公開] 公開日: 2023/02/24
    ジャーナル オープンアクセス HTML

     2019年台風第10号(Krosa)はフィリピン東部で、同時に存在した台風第9号(Lekima)の約1400km東で8月6日に発生し、8月15日には本州西部に上陸した。Krosaの発生直後を初期値とする現業全球モデルによる予報は大きな進路の不確実性を示し、Krosaの実際の進路の予報に失敗していた。本研究では、この大きな不確実性の要因について28km格子の全球非静力学モデルを用いた101メンバーアンサンブル予報実験により調べる。8月6日1200UTCを初期時刻とする実験は、大きな不確実性を示した。アンサンブルラグ相関解析は、進路予報誤差が大きいメンバーでは進路予報誤差が小さいメンバーに比べて北西太平洋亜熱帯高気圧がより東方へ後退していることを示した。Krosaの進路予報誤差が大きいメンバーはKrosaとLekimaとが互いに250km接近し、予報開始から36時間後にはKrosaが実際よりも北へ速く移動した。Krosaの進路予報誤差が小さいメンバーは2つの台風は互いに50kmしか接近せず、北進速度は実際と同程度であった。台風中心に相対的な合成図解析は、Krosaの進路予報誤差が大きなメンバーでは、初期時刻においてKrosaの水平方向の大きさがより大きく、かつ予報期間においてもその傾向が見られることを示した。Krosaの予報誤差の大きなメンバーでは、この水平方向の大きさの差により、2つの台風間のより強い相互作用と北西太平洋亜熱帯高気圧の後退とが引き起こされ、結果としてより速い北進へつながった。

  • 増冨 祐司, 飯泉 仁之直, 大吉 慶, 萱場 亙起, 金 元植, 滝本 貴弘, 眞崎 良光
    2023 年 101 巻 3 号 p. 209-227
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/06
    [早期公開] 公開日: 2023/03/16
    ジャーナル オープンアクセス HTML

     本研究では気象庁が運用する力学的季節予報(Dyn-SCF)システムであるJMA/MRI-CPS2の月降水量予報を、気候指標を用いた統計的季節予報(St-SCF)システムの予報と比較することにより、系統的かつグローバルに評価することを目的とした。このためにまず17の気候指標を用いた新しいグローバルなSt-SCFシステムを開発し、このシステムの月降水量予報をJMA/MRI-CPS2のものと比較した。その結果、0ヶ月予報では、JMA/MRI-CPS2の方がSt-SCFよりもグローバルに高い精度を持つことがわかった。一方、1ヶ月以上の予報では、決定論的予報スキルについてはJMA/MRI-CPS2とSt-SCFは同等であり、確率論的予報スキルについてはJMA/MRI-CPS2ほうがやや高かった。またSt-SCFと比較して、JMA/MRI-CPS2の予報精度が低い地域や季節があることが示された。これは、JMA/MRI-CPS2が特定のダイナミクスを適切に再現できていないことを示している。このようにDyn-SCFとSt-SCFを比較することで、Dyn-SCFの予報精度を向上させる可能性のある地域や季節を明らかにすることができると考えられる。

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