抄録
梅雨前線は、通常5月に西部北太平洋に形成される。本研究は、1979年から2014年(36年間)の客観解析データを使用し5月の梅雨前線活動の経年変動を調査した。まず熱帯からの暖かく湿った南風の季節的な強化が、気候学的な大規模準定在前線としての梅雨前線を5月に形成する。この熱帯からの暖かく湿った南風の強弱は、5月の梅雨前線活動の経年変動をも制御する。台湾を中心とした偏差的な大規模大気循環は、西太平洋における赤道ケルビン−ロスビー波束から北西に伝播する湿潤ロスビー波と解釈されるが、この東部において南風偏差の強弱を制御する。この赤道ケルビン−ロスビー波束は、赤道季節内振動と同定され、インド洋から西太平洋へと赤道域を東方伝播する。
5月の梅雨前線活動の経年変動は、エルニーニョ/南方振動(ENSO)の3−4年周期変動とは異なり約2年の周期の変動傾向をとる。この2年周期の変動傾向は、熱帯太平洋における海面水温偏差の東西に広がる三極分布と、これにともなう偏差的なウォーカー循環によって特徴付けられる。この偏差的な環境は、赤道ケルビン−ロスビー波束の崩壊を西部熱帯太平洋に制限し、続く湿潤ロスビー波の北西伝播を熱帯西部北太平洋に誘導する。ENSOは6月の梅雨前線中央部付近の経年変動を制御するが、この2年周期の変動傾向は、季節内振動の位相の反転と共に、梅雨前線西部における5月の経年変動と6月中旬までの経年変動に現れる。本研究は5月の梅雨前線活動の経年変動の予測因子として4月のインド洋における赤道季節内振動の活動度を提案する。