気象集誌. 第2輯
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986年春,筑波における黄砂のライダー観測と数値シミュレーション
甲斐 憲次岡田 芳隆内野 修田端 功中村 一高杉 年且二階堂 義信
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1988 年 66 巻 3 号 p. 457-472

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抄録

1986年3月上旬,アジア大陸の砂漠と黄十地帯でまとまった砂塵嵐が発生した。2,3日後,砂塵を含んだ空気塊は,偏西風に乗って,黄海を越え,日本に達した。3月12,13日,日本の各地で黄砂現象が観測された。筑波において13日15時より21時まで,黄砂のライダー観測を行った。本論文では,まず,黄砂層の鉛直構造とその時間変化を述べる。
15時,二つの黄砂層が高さ4kmと高さ2kmに観測された。上層は厚さ約1kmで,散乱比は3.2であった。下層はバックグランドエーロゾルと混じり合っていたかも知れない。その後,高さ4kmの黄砂層は発達し,厚さは1.5km,散乱比は5.7に増加した。18時,黄砂層は高さ4.5kmと3.5kmを中心とする二つのサブ層に分かれる。二つのサブ層を含む厚さは,2.2kmであった。ライダー観測値より導いた光学的厚さは,0.086(波長694.3nm)であった。18時から20時にかけて,黄砂層は0.5km低下した。20時,黄砂層はさらに分裂し,4.0km,3.2kmおよび2.7kmを中心とする三つのサブ層に分かれた。ラジオゾンデ観測と比較すると,上下のサブ層は湿度が低く,中層は湿度が高かった。
次に,黄砂の長距離輸送を調べるために,数値シミュレーションを行った。シミュレートされたトレーサーの水平分布と鉛直分布は,筑波におけるライダー観測および日本•中国におけるルーチン観測とよく一致した。特に,観測された黄砂の2層構造は,よく再現された。この二つの層は,トレーサーの放出高度の違いによることがわかった。数値シミュレーションにより,黄砂の発生地として黄土高原およびその周辺の砂漠が重要であることがわかった。また,タクラマカン砂漠の可能性は否定できない。黄砂が黄土高原から日本に達するのに要する時間は2-3日,またタクラマカン砂漠からは5-6日を要する。

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© 社団法人 日本気象学会
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