自然災害科学
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Print ISSN : 0286-6021
報告
欧州の越境火山災害をめぐるガバナンスの萌芽-2010年アイスラ ンド火山噴火を契機として-
阪本 真由美中道 治久髙橋 若菜荒島 千鶴荒木田 勝
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2021 年 40 巻 1 号 p. 51-66

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抄録

本論では,2010年にアイスランドで発生し, 欧州全体に被害をもたらしたエイヤフィヤトラヨークトル火山噴火をめぐる政策決定プロセスの分析から,欧州において越境火山災害ガバナンスがいかに形成されているのか,その特性とは何かを考察した。2010年のアイスランドの火山噴火では,噴火に先駆け住民が避難しており国内においては人的被害がみられなかった。その一方で,火山灰が欧州広域に拡散したことにより,欧州各国の空港が閉鎖・航空機が運休し,欧州の社会経済に大規模な被害がもたらされた。噴火に先駆け欧州では,越境火山災害に対応するために,「災害対応レジーム」と「航空交通管制レジーム」というレジームが構築されていたが,これらのレジームでは混乱を防ぐことが難しかった。これは,噴火後の国際的な政策決定において,火山活動の推移,火山灰の拡散予測,火山灰の濃度,ジェット・エンジンの耐久性などの詳細な科学技術情報に基づく「受容可能」基準の検討が迫られたものの,当時はそのための体制が十分に整備されていなかったことによる。このことは,越境火山災害対応においては,通常の災害対応とは異なりレジームを超えたガバナンスが求められるという特質を示すものでもある。欧州では,噴火後に問題解決に向け国・分野を越え科学者・行政実務者による科学的プラットフォーム(エピミスティック・コミュニティ)が自律的・分散的に発展している。すなわち,2010年の噴火を契機に欧州では越境火山災害に対応するためのグローバル・ガバナンスが芽生えていると捉えられる。

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© 2021 日本自然災害学会
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