抄録
災害報道におけるジャーナリズム活動を検証する目的で,2021年7月に発生した静岡県熱海市土石流災害を報じた全国紙5 紙の新聞記事を題材としてメディア・フレームの分析を行った。Thorson(2012)が提唱したフレームモデルを援用した演繹的アプローチによって,Blame(有責・非難)が発生当初から用いられ,支配的なフレームとなったこと,Devastation(荒廃・壊滅)とHelplessness(無力)の両フレームが,Solidarity(連帯・結束)のフレームに先行して用いられることが明らかとなった。こうしたフレーミングは,普遍的な課題を特定地域の問題として矮小化したり,報道の過集中を招いたりする弊害をもたらす可能性がある。これらのフレームが用いられる要因として,マス・メディア組織内で定式化された慣行である「メディア・ルーティン」の存在が考えられる。本研究の結果は,災害の複雑で多義的な現実を報じるために,ジャーナリストには既存のルーティンやフレームの問い直しが求められていることを示している。