自然災害科学
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41 巻, S09 号
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報告
  • 本間 基寛, 牛山 素行
    2022 年41 巻S09 号 p. 1-18
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/11/27
    ジャーナル フリー
    令和3年8月の大雨では,西日本から東日本の広い範囲で大雨が続き,総降水量が多いところで1,400mm を超える記録的な降水量となり,全国での総降水量は平成30年7 月豪雨と匹敵する規模となった。筆者らが過去の豪雨事例の分析結果をもとに, 3 , 6 ,12,24,48,72時間の降雨継続時間降水量や土壌雨量指数といった7つの降雨指標の既往最大比最大値から犠牲者の発生数を推計した結果25人程度なり,実際に発生した犠牲者数はそれの約50%である13人で あった。全国における総降水量が多かったにも関わらず,この大雨による犠牲者数は平成30年7月豪雨の1/20程度に抑えられた。今回の大雨では,各々の地点における48時間降水量や72時間降水量,土壌雨量指数がそれまでの観測値の150%超といった大幅に超えるような降り方とはならなかったために,土砂災害や河川氾濫の発生が限定的となり,犠牲者数の発生が抑えられたとみられる。
  • 宮嶋 愛菜, 福島 洋, 中埜 貴元, 藤原 智
    2022 年41 巻S09 号 p. 19-35
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/11/27
    ジャーナル フリー
    谷埋め盛土造成地などの宅地造成地では,2011年東北地方太平洋沖地震,2016年熊本地震,2018年北海道胆振東部地震などで深刻な被害が報告されている。本研究では,2011年東北地方太平洋沖地震により引き起こされた宅地成地について,宮城県仙台市を対象とし,合成開口レーダ干渉法(InSAR)を用いて変動を検出し,変動発生背景について考察した。過去に報告されていた地表変状確認箇所では,干渉画像上において局所的な位相変化領域や非干渉領域として検出され,さらに被害報告がない複数の宅地造成地域においても変動が検出された。変動の特徴から,仙台市の宅地造成地では圧縮沈下が宅地盛土の変動メカニズムの1つであったことが推察される。
  • 金井 純子, 中野 晋, 蒋 景彩, 徳永 雅彦, 廣瀬 幸佑
    2022 年41 巻S09 号 p. 37-43
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/11/27
    ジャーナル フリー
    令和2 年7月豪雨により佐敷川の近くに立地する高齢者施設Cは浸水被害を受けた。高齢者施設Cを対象に,被害状況や避難行動に関するインタビュー調査と氾濫解析を実施した。避難行動と浸水の過程からみて,より安全な避難のタイミングを逃していた。主な理由として,想定外の出来事であったこと,情報が活用されなかったこと,マンパワーが足りなかったこと,浸水の速度が速かったことなどが考えられる。この教訓として,情報を活用した行動計画,夜間の緊急参集体制,複数のパターンによる避難訓練,などが挙げられる。また,高齢者の安全な生活のためには避難確保計画と事業継続計画(BCP)の両方が求められる。一方,広域避難に関する行政上の課題も明らかになった。この課題を解決するためには,自治体や福祉団体による計画策定支援が必要で,介護保険制度の規制緩和,行政手続きの簡略化が望まれる。
  • 大川原 大智, 井上 和真, 大塚 叶登, 浅見 健斗
    2022 年41 巻S09 号 p. 45-53
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/11/27
    ジャーナル フリー
    昨今の社会問題として,頻発する自然災害やインフラの老朽化に伴う維持管理作業の増加,少子高齢化,人口減少に伴う働き手の不足等が挙げられる。本研究では,前述した問題を解決することを目的とした安価な小型IoTセンサを開発し,防災情報の取得・発信や,構造物の維持管理に関する実証実験を行った。防災分野における実証実験として,群馬県甘楽郡下仁田町を流れる河川合流部の水位状況を,IoTセンサを用いて写真を撮影し,SNSへの情報発信(画像投稿)を実施した。また,構造物の維持管理に関する実証実験として,RC床版下部のひび割れの撮影を行い,IoTセンサを用いた構造物のひび割れ検出への適用性について検討した。防災分野および構造物の維持管理に関する実証実験は円滑に行われ,安価な小型Io センサ活用の実現可能性を示す結果となった。
  • 酒井 悠里, 佐藤 健
    2022 年41 巻S09 号 p. 55-64
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/11/27
    ジャーナル フリー
    仙台市が実施しているマンション防災の取り組みとして杜の都防災力向上マンション認定制度とがんばる避難施設マンションがある。前者は明確な認定基準をもとに認定されるが,後者は明確な登録基準が示されていない。本研究では,がんばる避難施設マンションに杜の都防災力向上マンション認定基準を適用し,防災力を明らかにすることを目的とする。仙台市に対するヒアリング調査の結果,がんばる避難施設マンションは41棟,杜の都防災力向上マンションは56棟,両者を満たすものは5 棟あることが分かった。さらに,アンケート調査の結果,がんばる避難施設マンションは防災性能に差があるが,防災活動は高い結果となり,潜在的な防災力の高さを明らかにした。
  • 兼光 直樹, 山本 晴彦, 坂本 京子, 山崎 俊成, 岩谷 潔
    2022 年41 巻S09 号 p. 65-81
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/11/27
    ジャーナル フリー
    2016(平成28)年台風16号により被災した宮崎県延岡市北川地区においてアンケート調査を実施し,霞堤による治水方式や宅地嵩上げ工事について,当該住民の見解を把握し,課題の分析を行った。台風の常襲地である本地区では農業被害や流木撤去作業等の負担が大きく,霞堤に対して否定的な回答も見受けられた。嵩上げ工事について回答者の多くで実施されるが,既往の災害を考慮して,さらに高くして欲しいという回答が多かった。そして,直近の水害による被災後も地域や家庭における水害への備えは,十分であるとは言えなかった。
  • 丸山 洸, 三ツ井 聡美, 吉本 充宏, 石峯 康浩, 本多 亮, 秦 康範
    2022 年41 巻S09 号 p. 83-94
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/11/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,富士山の登山者を対象に,富士山噴火に関する認識と,火山情報の収集状況を明らかにすることを目に,2021年9月に富士山吉田ルートの下山者を対象にアンケート調査を実施した。調査の結果,回答者の8割以上は富士山の噴火の可能性を認識していたが,火山噴火に不安を抱く人は約1 割であった。火山の活動状況を事前に確認した人は1 割に満たなかった。また,噴火警戒レベルや富士山噴火時避難ルートマップの認知度は低く,富士山の噴火警戒レベルを正しく理解していないことが明らかになった。登山者自身による火山に関する知識や火山情報の収集の促進のためには,登山道入り口などでの情報提供の充実が求められる。
  • 野畑 舞愛郎, 古川 愛子, 清野 純史
    2022 年41 巻S09 号 p. 95-110
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/11/27
    ジャーナル フリー
    個別要素法を用いた粒状体シミュレーションでは,円形要素が用いられることが多い。円形要素は回転し易いため,要素の回転を抑制する方法として転がり摩擦が用いられてきた。一方,多面体要素を用いた個別要素法では,要素形状自体に回転を抑制する効果があるため,転がり摩擦を導入した解析事例はない。しかし,要素形状が実際の粒状体の形状と異なる場合,転がり抵抗も異なる。そのため,解析結果も実挙動と異なるものとなってしまう。そこで本研究では,多面体要素を用いた個別要素法に新たに転がり摩擦を導入した。提案した転がり摩擦が個別要素法において機能するか,転がり摩擦の導入により形状の異なる要素を用いた解析結果の差異を低減できるかどうか検証を行った。具体的には,十面体と八面体の2 種類の形状の要素について滑り摩擦係数と転がり摩擦係数を変化させた安息角を求めるシミュレーションを行い,転がり摩擦が安息角に及ぼす影響を調べた。また,岩塊の崩壊シミュレーションも行い,滑り摩擦および転がり摩擦が解析結果に及ぼす影響を検証した。
  • 佐藤 史弥, 吉本 充宏, 本多 亮, 秦 康範
    2022 年41 巻S09 号 p. 111-124
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/11/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,住民の防災意識を把握するために実施した事前アンケートに基づき,火山防災講習会を実施し,富士山噴火に対する住民の理解とリスク認識を明らかにした結果を報告する。調査の結果,富士山噴火による火山現象は多岐にわたるため,住民の理解が難しい可能性があることが示唆された。そこで,調査から得られた課題を解消するために火山防災講習会を企画・実施した。講習会での質疑と事後アンケートの分析から,参加者は富士山の噴火によって発生する火山現象の動き,速さ,範囲について理解しており,火山防災講習会の教育目標が達成された。本研究で得られた結果は,富士山の噴火リスクに関する知識の普及・啓発といったリスクコミュニケーションを実施する上での有用な知見となると考えられる。
  • 日野田 圭祐, 竹之内 健介, 田中 耕司, 松田 曜子
    2022 年41 巻S09 号 p. 125-140
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/11/27
    ジャーナル フリー
    近年,中小河川を中心に危機管理型水位計の設置が進んでいる。しかし地域における活用方法やその評価について十分な議論は確認されない。本調査では,危機管理型水位計の活用状況や地域防災における活用について十分なデータがないことから三重県内の地方自治体と伊勢市の自治会を対象に,危機管理型水位計の活用状況に関する質問紙調査を実施した。調査の結果,危機管理型水位計が自治体では活用が進んでいる一方で,自治会では十分に進んでいないことがわかった。これは危機管理型水位計の地域における認知が不十分であること,地域における活用方法が明確になっていないことが要因であると推察された。
論文
  • 中谷 加奈, 里深 好文
    2022 年41 巻S09 号 p. 141-150
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/11/27
    ジャーナル フリー
    本研究は2014年8 月に広島で土石流が発生した渓流を対象に,流域面積と降雨量から求めた水の供給量と災害時に報告された流出土砂量を用いて土石流シミュレーションを実施した。結果から水が不足して土砂が残存する渓流が多く,不足傾向なのは面積が小さい渓流や花崗岩に多かった。土石流を構成する土砂量や水の量,すなわち土石流規模を表す集水領域の指標として,従来の流域面積では十分表現できないと考えて,隣接渓流や山体内部の水移動を考慮した 三次元的なサイズとして流域の体積を用いて,土石流規模との関係を検討した。体積を指標にすると規模との対応が最もよく,シミュレーションでの土砂残存率の差も他の指標より明らかに示された。
  • -2021年7月静岡県熱海市土石流災害の新聞記事を題材に-
    川西 勝
    2022 年41 巻S09 号 p. 151-171
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/11/27
    ジャーナル フリー
    災害報道におけるジャーナリズム活動を検証する目的で,2021年7月に発生した静岡県熱海市土石流災害を報じた全国紙5 紙の新聞記事を題材としてメディア・フレームの分析を行った。Thorson(2012)が提唱したフレームモデルを援用した演繹的アプローチによって,Blame(有責・非難)が発生当初から用いられ,支配的なフレームとなったこと,Devastation(荒廃・壊滅)とHelplessness(無力)の両フレームが,Solidarity(連帯・結束)のフレームに先行して用いられることが明らかとなった。こうしたフレーミングは,普遍的な課題を特定地域の問題として矮小化したり,報道の過集中を招いたりする弊害をもたらす可能性がある。これらのフレームが用いられる要因として,マス・メディア組織内で定式化された慣行である「メディア・ルーティン」の存在が考えられる。本研究の結果は,災害の複雑で多義的な現実を報じるために,ジャーナリストには既存のルーティンやフレームの問い直しが求められていることを示している。
  • 黒田 望, 梶谷 義雄, 多々納 裕一
    2022 年41 巻S09 号 p. 173-185
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/11/27
    ジャーナル フリー
    ライフラインの途絶時において残存する企業の生産能力は,ライフラインレジリエンスファクターと呼ばれ,経済影響評価の基礎的な指標となってきた。本指標は,ライフライン途絶に対する企業の生来的な耐性や適応能力を示しており,事業内容によっても異なる。本研究では,これまでの調査では十分に調査及び定量化されてこなかった道路機能低下に対するレジリエンスファクターを推計したものである。携帯電話の位置情報及び事業所アンケートを基に,平成30年7月豪における交通機能及び事業所の売上水準が回復する過程を推計し,これらの関係をモデル化したものである。モデル化の結果,交通機能が4 割程度に低下すると,事業所の売上水準が0まで低下することが示された。
  • 金田 安弘, 萩原 亨, 松岡 直基, 永田 泰浩
    2022 年41 巻S09 号 p. 187-201
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/11/27
    ジャーナル フリー
    道路吹雪災害の3 つの被害対象である道路,車両,道路利用者の各素因に,誘因である視程障害および吹きだまりの外力が作用して災害が発生する。誘因と素因がそれぞれ相互に関係するため,道路吹雪災害の構造は複雑である。本研究では,道路吹雪災害を最小限に抑える方策についてリスクマネジメントの観点から考察した。道路吹雪災害のリスク対応では,通行止めや運転中止などのリスク回避が重要となる。リスク回避を社会に定着させるためには,リスクコミュニケーションを通じて,気象機関・道路管理者・メディア・道路利用者等のステークホルダー間で情報を共有し,意思疎通と共通理解を図る必要がある。また,PDCA サイクルを通してリスクコミュケーションを継続的に発展させることで,道路吹雪災害リスクへの各ステークホルダーの対応レベルが高くなり,社会全体としての吹雪災害対応力も向上すると考えられ,そのような仕組みを今後強化していくべきことを提案した。
  • -栃尾小学校の4年生児童と保護者を対象とするぼうさい空日記の分析を通じて-
    鎌田 暉, 竹之内 健介, 高橋 孟紀, 市田 児太朗, 宮田 秀介, 堤 大三, 矢守 克也
    2022 年41 巻S09 号 p. 203-221
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/11/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,人の雨に対する感覚特性に着目し,雨の強さ,雨の長さ,土砂災害の危険度に関する人の感覚のばらつき,個人間で生じる雨の感覚の差を確認し,雨の感じ方を分類することで人の雨の感じ方の特徴を見出す。調査は,高山市立栃尾小学校の4年生とその保護者を対象に実施した。その結果として,児童と保護者の雨の強さ,長さ,土砂災害の危険度の感じ方にばらつきがあり,児童と保護者が雨に対してどのように感じているかを見える化できることが確認された。また,それぞれの感じ方を3 つのグループに分類し,グループごとの感覚の傾向を偏りなく,示すことが可能であった。
  • 渡邊 祥庸, 井上 和真, 池田 隆明
    2022 年41 巻S09 号 p. 223-235
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/11/27
    ジャーナル フリー
    北海道胆振東部地震による被災前後の地形オープンデータを用い,GIS ソフトにより厚真町の広域斜面の安定性を評価した。直線すべりのパラメータは既往の調査結果や被災前後の数値標高モデルから定めた。その結果,地震によって実際に斜面崩壊した範囲よりも広い範囲で不安定な箇所が抽出された。加えて,直線すべりに適用した各パラメータの安全率への影響度を確認するとともに,今回得られた結果について考察した。その結果,斜面の傾斜の向きに合わせた水平震度の低減を考慮することで,実際の崩壊現象の再現度が上がる可能性があると分かった。
  • -被災自治体職員へのヒアリング調査を通して-
    折橋 祐希, 浦川 豪
    2022 年41 巻S09 号 p. 237-252
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/11/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,風水害における住家被害認定調査と罹災証明書発行業務について,国が推奨する手法と現場の実態から,簡易化されている業務手法を,公平性などの手法を選択する上で重要となる特性と併せて6 種類に体系化した。ヒアリング調査は,令和元年東日本台風において災害対応に従事した職員に対して実施した。調査を通して,上記で示した簡易化の手法を上手く取り入れながら,効率的に業務を遂行していることが明らかになった。一方で,より被害が甚大となった場合や地震災害の場合は,同様の手法が用いることができない状況が想定されるため,直面している複数のハザードや被害規模を想定した事前の議論が必要不可欠である。
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