保健医療科学
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特集
在宅高齢者の口腔機能の維持・向上と栄養改善のための多職種連携
白髭 豊
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ジャーナル オープンアクセス

2016 年 65 巻 4 号 p. 401-407

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抄録

 長崎在宅Dr.ネットを中心とした口腔機能の維持・向上,栄養改善に関する多職種連携を紹介する.2003年に発足したDr.ネットは,都市部の診療所連携を推進して医師の負担感の軽減を図る一方,多職種間で様々な連携を行なってきた.結成当初より独自の管理栄養士派遣システムを作り, 2 名の管理栄養士が複数の診療所において外来および訪問栄養指導を実践した.Dr.ネットと管理栄養士の連携を普遍化した形で,長崎県栄養士会は2004年10月『ながさき栄養ケアステーション』を組織し,栄養士を診療所,病院,医師会などの依頼により斡旋・派遣するシステムとなった.また,在宅でできる簡単なレシピ集作りを行なうとともに2005年10月には胃ろうに関する研修会を実施し,知識・技術の普及に努め,2012年には,「在宅における胃ろう管理の手引き」を作成し,地域の関係職種が力を合わせて,病院,在宅でバラバラだった指導方法等をまとめた.Dr.ネット医師と歯科医師,歯科衛生士,栄養士とが緊密な連携を行ない,口腔機能の維持・向上に取り組んだ.
 これらの活動によって,管理栄養士が在宅で利用者家族とともに調理し,誤嚥性肺炎の再発予防に寄与するとともに,介護者の自信と安心につながった.在宅でできる簡単なレシピ集も高齢者の栄養改善に役立った.また,胃ろうに関する研修会によって,経験のなかった医師でも在宅で胃ろう交換・管理が困難なく出来るようになり,胃ろう管理の手引きとともに一般医のレベルアップへつながる取り組みとなった.
 嚥下能力の低下により体重・食事量が減少している特養入所中の要介護高齢者に対しては,歯科医の指示のもとに歯科衛生士が介護職員に指導して咀嚼訓練を行った結果,口唇などの口腔周囲筋力や摂食嚥下状態が改善し,食事摂取量と体重の増加が認められた.また,脳梗塞の後遺症で経口摂取が顕著に減少した要介護高齢者に対しては,耳鼻科医の嚥下評価の後に実施した栄養士による嚥下食指導,歯科医による入れ歯の調整,歯科衛生士による口腔ケアの定期導入により食欲や咀嚼が改善し,胃ろう導入を回避できた.このように医師,歯科医師,歯科衛生士,栄養士などの多職種連携を有機的に展開することで,口腔機能の維持・向上,栄養改善で着実な成果が得られた.

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© 2016 国立保健医療科学院
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