保健医療科学
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特集
原発事故に伴う二次的な健康課題
―相馬・南相馬地区での経験から―
坪倉 正治
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ジャーナル オープンアクセス

2018 年 67 巻 1 号 p. 71-83

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抄録

原発事故およびそれに伴う放射線災害は周辺地域の放射能汚染を引き起こし,周辺地域住民へ放射線被ばくに伴う健康影響を及ぼしうる.しかしながら,放射線災害の地域住民への影響は放射線被ばくによるものだけに留まらない.本稿では東日本大震災および福島原発事故後,放射線被ばく以外の事故後の二次的な健康課題について,福島県浜通り地区でも福島原発の北10km〜50kmの範囲に存在する相馬市・南相馬市でのデータを元に概説する.

事故初期に最も問題となるのは避難に伴う特に高齢者への健康影響である.避難は放射線被ばくを低減するための最も有効な手段である一方で,震災数年間を通して最も大きな健康影響を持ちうる.中・長期的には糖尿病に代表される慢性疾患・生活習慣病,運動機能の悪化は最重要課題の一つである.特に糖尿病の悪化による影響は,放射線被ばくの数十倍の健康影響を及ぼしうる.診療行動,受診行動,介護にも多くの問題が存在する.これらの多くの問題は,個人の自己判断や意思決定の問題として考えるより,社会や地域の問題,地域が変容することで社会的なサポートが欠如してしまった結果として起こったものとして考え対策を行うべきものである.これらの様々な健康リスクをバランス良く考え,対策を長期的に行うことが原発事故後には必要となる.

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© 2018 国立保健医療科学院
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