2018 年 67 巻 3 号 p. 255-260
レギュラトリーサイエンスは,科学技術の導入による利益と不利益を調整しようとする際に,自然科学的合理性と社会科学的洞察に基づく判断に指針・根拠を与えるための体系化された知識である.新しい科学技術を広く社会に導入する際には,導入の準備段階から国・自治体が環境・社会・疫学調査によるデータの収集に能動的にかかわることが重要である.得られた情報は,科学技術の導入に伴うリスクとコストにかんする市民教育にも役立ち,また,民主的な意思決定にとっても必須なものとなる.環境政策の意思決定においては,利益と不利益のバランスを図るだけでなく,健康影響や環境負荷を可能な限り最小限とする努力が必要であることは言うまでもないが,同時に,住民の「たつき(生活の手段とそれを提供する場)」の保護とソーシアルキャピタルの増加を重視すべきである.