保健医療科学
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67 巻, 3 号
これまでの環境リスクとこれからの環境リスク
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
特集
  • ボス ロバート
    原稿種別: 巻頭言
    2018 年 67 巻 3 号 p. 239-240
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/26
    ジャーナル オープンアクセス
  • 浅見 真理, 欅田 尚樹
    原稿種別: 解説
    2018 年 67 巻 3 号 p. 241-254
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/10/26
    ジャーナル オープンアクセス

    世界保健機関は,2016年「健康的な環境による疾病予防―環境リスクによる疾病負荷の国際評価」を発表した.環境と労働に関する100以上の疾病のシステマティックレビューを行い,全世界の死亡の23%(疾病負荷の22%)と 5 歳未満の子供の死亡の26%は環境の改善により削減可能であり,世界的に環境の改善が健康と福祉を促進できることを示した.日本では,特に1950年代以降,鉱山廃水,工場排水などの水環境,それらに汚染された魚や米,大気汚染などによる激甚な公害による健康被害が引き起こされたが,その後政策面,技術面,管理面,研究面で様々な改善に取り組んできた.しかし,公害での対応では厳密な科学的知見の集積を求め,対応に時間を要したことも否めず,今後も基準や制度の改正のみならず,予防的アプローチに基づくリスク評価やリスク管理に基づくリスクコミュニケーションを実施し,常に環境改善の枠組みを検討しなければならない.地球規模での環境改善への貢献や将来を見越した政策の検討も求められている.加えて,地域の人口減少や人手不足,調査の予算不足なども踏まえ,持続可能性も考慮した施策を検討する必要がある.

  • 秋葉 澄伯
    原稿種別: 総説
    2018 年 67 巻 3 号 p. 255-260
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/10/26
    ジャーナル オープンアクセス

    レギュラトリーサイエンスは,科学技術の導入による利益と不利益を調整しようとする際に,自然科学的合理性と社会科学的洞察に基づく判断に指針・根拠を与えるための体系化された知識である.新しい科学技術を広く社会に導入する際には,導入の準備段階から国・自治体が環境・社会・疫学調査によるデータの収集に能動的にかかわることが重要である.得られた情報は,科学技術の導入に伴うリスクとコストにかんする市民教育にも役立ち,また,民主的な意思決定にとっても必須なものとなる.環境政策の意思決定においては,利益と不利益のバランスを図るだけでなく,健康影響や環境負荷を可能な限り最小限とする努力が必要であることは言うまでもないが,同時に,住民の「たつき(生活の手段とそれを提供する場)」の保護とソーシアルキャピタルの増加を重視すべきである.

  • 益永 茂樹
    原稿種別: 総説
    2018 年 67 巻 3 号 p. 261-267
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/10/26
    ジャーナル オープンアクセス

    ドイツを発祥とする「予防原則」は国際法に取り入れられ,現在では各国の法制度でも援用されるようになった.しかし,因果関係が不確実な状況において対策を実行する原則であり,その適用に関しては賛否の議論が存在する.ここでは,予防原則の誕生から国際的な受容過程,類縁語である「(未然)防止原則」や「予防的アプローチ」との相違などを概観すると共に,予防原則はリスク評価体系においてリスク回避的施策の選択として位置づけられることを紹介した.さらに,予防原則の適用における課題を例示し,欧州委員会による予防原則を適用する際のガイドラインを紹介した.

    次いで,地球環境リスク,とりわけ生態リスク評価における手順について,エンドポイントの採用を中心とした工夫の実態と不確実性について議論した.最後に,不確実性の高い生態リスク管理においては,対応施策を導入するには予防原則の適用が必要となるが,その合意形成には,リスク評価に頼るだけでなく,持続可能性などへの配慮も必要であることを議論した.

  • 寺園 淳
    原稿種別: 総説
    2018 年 67 巻 3 号 p. 268-281
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/10/26
    ジャーナル オープンアクセス

    国内でアスベスト問題への関心は1980年代後半から高まり,2005年のクボタ・ショックで大きな社会問題となった.クボタ・ショックを契機として,一般環境における被害者に対しても救済の道が開かれた.それでも,アスベストの危険性が認識されながら,欧米に比べて10~15年程度も使用禁止が遅れて建材などに使用され続けてきたツケは大きい.現在もアスベスト含有建材の所在が明確でない建築物が一般に多数あり,平常時及び災害時において,その解体や廃棄物対策に追われている.建築物の解体に伴うアスベストの調査や対策に関する法整備は進んできたが,その遵守が徹底されないなど,総務省の勧告によって実効性を上げる努力が求められてきた.本稿では,アスベストの基礎知識を概観した上で,アスベストによる環境リスクと規制を整理し,これからの課題を論ずる.

  • 上島 通浩, 柴田 英治
    原稿種別: 総説
    2018 年 67 巻 3 号 p. 282-291
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/10/26
    ジャーナル オープンアクセス

    化学物質による中毒の歴史は対策の後追いの歴史である.本稿では環境リスクへの対応の観点から,未知の毒性による職業病としての中毒性疾患予防のために何が必要か,有機溶剤中毒事例を中心に考察する.

    1950年代の慢性ベンゼン中毒多発によるベンゼンの規制により,1960年代にはより安全と考えられたノルマルヘキサンに溶剤が転換され,当時は未知の毒性であった末梢神経障害が多発した.その背景には,エネルギー革命に伴うノルマルヘキサンの大量供給があった.

    1995年には韓国の電子部品工場で,洗浄用溶剤の切り替え後に生殖機能障害や造血器障害が多発した.新しい洗浄剤の主成分は2-ブロモプロパンで,当時その毒性は未知であった.この中毒発生の背景には,地球のオゾン層保護のためオゾン破壊係数の小さい洗浄剤の必要性があった.また,1990年代半ば以降,トリクロロエチレンによる典型的な急性・慢性中毒とは異なる過敏症症候群が,中国南部で多発するようになった.その背景には2-ブロモプロパンによる中毒発生と同様に,オゾン破壊係数の小さいトリクロロエチレンの大量使用があった.

    2012年には,校正印刷を行う職場での胆管がんの多発が社会問題になった.1,2-ジクロロプロパンまたはジクロロメタンに長期間,高濃度曝露することにより発症しうると結論されたが,曝露量が多くなった背景には,1,2-ジクロロプロパンを使用する事業場で作業環境測定や有機溶剤健康診断の実施義務が課されていなかったことがある.

    有機溶剤中毒とは異なるが,今世紀になって2-エチル-1-ヘキサノールの室内濃度が高く,シックビル症状を引き起こす部屋の存在が知られるようになった.プラスチック製の床材がセメントコンクリートに直接接着された部屋では,プラスチック可塑剤等が加水分解して2-エチル-1-ヘキサノールが生成・放散することが解明された.

    今日では法が規定する化学物質管理は充実してきているが,法制定以前から使われている既存化学物質については,未知の毒性がある可能性をふまえた曝露管理が必要である.予期しない物質に曝露される問題の解決には,医学と工学の連携が必要であり,将来に向けて,大学工学部において化学物質の健康影響に関する教育をより充実させることを提唱したい.また,労働衛生管理が不十分になりがちな国々での職業性中毒の発生状況にも注意を配る必要がある.

  • 岸 玲子, 荒木 敦子
    原稿種別: 総説
    2018 年 67 巻 3 号 p. 292-305
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/10/26
    ジャーナル オープンアクセス

    シーア・コルボーンらにより「Our stolen future(邦訳「奪われし未来」)」が出版された1996年頃から,各国で環境化学物質の内分泌かく乱作用など次世代影響に関心が高まった.日本でも我々は2001年から厚生労働科学研究により「環境と子どもの健康に関する北海道スタディ:先天異常・発達・アレルギー」として 2 つのコーホートを立ち上げた.コーホートの 1 つは北海道全域の産科の協力により器官形成期に同意を得て,母20,926人のベースライン採血を行い,出生アウトカムを観察し,その児を学童期,思春期と追跡している.他の一つは妊娠中後期に母514人の同意を得て児の詳細な精神神経発達を観察している.この研究は我が国で初めての本格的な出生コーホートで,16年に渡って追跡し,現在までに100編を超える原著論文が出ている.コーホート研究の最近の成果を見るとPCB・ダイオキシン類,有機フッ素化合物,有機塩素系農薬など半減期の長いPOPsでは母の曝露濃度が体格,甲状腺機能,性ホルモンに影響を与え,生後の神経発達,感染症アレルギー等にも影響を与えた.近年,使用量が増加しているプラスチック可塑剤やBPAなど短半減期物質と肥満や発達障害等の関係についても検討を開始している.日本では過去に高濃度の水銀曝露で水俣病が,またダイオキシン類曝露でカネミライスオイル事故が引きおこされた.一方,本研究における比較的低濃度レベルの曝露でも,比較的高い人と低い人では影響の差が検出された.北海道スタディは当初から環境遺伝交互作用に着目し,SNPs解析によって喫煙やカフェインなど環境要因に感受性が高いハイリスク群を発見してきた.またエピゲノム解析では,環境化学物質の濃度と関連したメチル化への影響や,出生体重など発育に影響するCpGサイトを介在分析で明らかにできた.近年は世界的にDOHaD仮説(Developmental origin of health and Diseases, 疾病の胎児期・幼少時期起源説)が重要になっているので,今後は広く小児疾患への環境要因として捉えることが必要になる.環境疫学では正確な曝露測定に基づくリスク評価を行い,科学的な成果を環境政策に活かすことが重要である.実際に,北海道スタディは環境省エコチル研究のモデルにもなり,計画設計時から協力している.また日本,韓国,台湾の 3 つのコーホートの主任研究者が協力してBiCCA(Birth Cohort Consortium of Asia)を設立し,現在15か国で29の出生コーホートが参加して活動をしている.今後のリスク評価でも国際共同研究が数多く進展するであろう.

  • 宇都 正哲
    原稿種別: 総説
    2018 年 67 巻 3 号 p. 306-312
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/10/26
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    我が国は,これから2050年代まで約30年かけて,移民政策を採らなければ,戦後の1965年当時の8,800万人まで減少していく.しかも高齢者比率が約40%と約半数の労働生産人口で日本経済を支えていかなければならない.このプロセスにおいてインフラは老朽化が進むとともに大量更新の時代を迎える.このようななか重要となるのが持続可能なインフラづくりである.そのためには,環境,経済,社会,技術のバランスを考慮する必要がある.本稿ではそのなかでも環境リスクについて論考したが,従来は人口増加や都市化による環境汚染がメイン・イッシューであった.我が国も成長期には公害,ヒートアイランド現象,交通混雑による排ガス問題をはじめ様々な環境問題に直面してきた.その点,人口が減少するのなら,環境負荷は軽減するのでないかという見方をされることが多い.しかしながら,都市が縮退していくプロセスでは,インフラネットワークの効率性が低下するコールドスポット現象が,環境へ悪影響を与える可能性があることはあまり指摘されていない.本稿では,この点を東西統合後の旧東ドイツを例に考察したが,日本でも同様な傾向がみられるのは非常に危惧される.成長期には都市やインフラのSmart Growthが叫ばれたが,人口減少下の日本では,環境リスクに配慮したSmart Shrinkが求められている.SDGsが政策目標とされるが,インフラ再生には環境リスクも忘れてはならないことを提言したい.

論文
  • 言語的妥当性の検討
    森川 美絵, 中村 裕美, 森山 葉子, 白岩 健
    原稿種別: 原著
    2018 年 67 巻 3 号 p. 313-321
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/10/26
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:日本では,利用者視点やケアの社会的側面を考慮したアウトカムの把握・測定尺度の開発と,それをケアシステムやケア事業の運営につなげていくことが大きな課題である.本稿では,著者らが本邦初の試みとして取り組んでいる社会的ケア関連QOL尺度the Adult Social Care Outcomes Toolkitの利用者向け自記式 4 件法(ASCOT SCT4)の日本語版開発に関して,特に,設問項目の日本語翻訳の言語的妥当性の検討に焦点をあて,その概要を報告する.

    方法:翻訳プロセスは「健康関連尺度の選択に関する合意に基づく指針」(COSMIN)に依拠し,順翻訳・逆翻訳・精査と暫定日本語版の作成,事前テスト,事前テスト結果および臨床的観点をふまえた修正と最終承認,の3段階で実施した.実施期間は2016年 7 月〜2017年12月である.事前テストでは,第一段階で生成された暫定日本語翻訳版について,2地域の潜在的利用者を対象とした認知的デブリーフィングを実施した.認知的デブリーフィングは,設問項目の意味の理解や文化的な許容を確認するための構造化されたインタビュープロセスである.

    結果:事前テストの結果,尺度を構成する 8 領域のうち「日常生活のコントロール」領域および「尊厳」領域の 3 つの設問項目で,暫定翻訳語への違和感や設問文の言い換え困難が報告された.事前テスト結果をふまえた原版開発者・日本の研究チーム・翻訳会社の 3 者による修正案の検討,さらに臨床的観点からのより簡潔で日常用語に近い表現にむけた微修正を経て,最終的な日本語翻訳版が承認された.

    結論:社会的ケア関連QOL尺度であるASCOT SCT4について,翻訳手続きの国際的指針に適合し,原版開発者から承認を受けた日本語翻訳版を世界で初めて作成した.翻訳の言語的妥当性を確保する上で,潜在的利用者から直接的なフィードバックを得ることの重要性が確認された.「日常生活のコントロール」「尊厳」領域の設問項目の翻訳には,翻訳先言語での日常会話における通常用語に照らした,注意深い検討が必要となることが示唆された.今後は,尺度の妥当性の統計的検討や,ケアのシステムや実践のアウトカム評価におけるASCOT日本語翻訳版の応用手法の検討を進める必要がある.

  • 経験学習サイクルに基づく内省型教育プログラムの概要と受講者アンケートの結果から
    堀井 聡子, 奥田 博子, 成木 弘子, 川崎 千恵, 大澤 絵里
    原稿種別: 報告
    2018 年 67 巻 3 号 p. 322-329
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/10/26
    ジャーナル オープンアクセス

    健康課題の複雑化,保健活動を取り巻く環境変化を背景に,管理的立場にある保健師には高度かつ多様な能力が求められており,必要な能力の獲得に向けた人材育成方法の開発が急務である.かかる状況に対し,国立保健医療科学院公衆衛生看護領域では,経験学習サイクルモデルに基づき内省型教育プログラムを開発し,同院の公衆衛生看護研修統括保健師および管理期研修に導入した.本稿では,同プログラムの概要と研修生のアンケート結果が示唆する本プログラムの効果について報告する.

    アンケート結果から,開発したプログラムは,管理的立場にある保健師の「承認されることによる自己効力感の向上」,「自組織における人材育成に対する動機づけ」,「内省による前提の問い直し」,「概念化の重要性と難しさの認識」等に寄与する可能性が示唆された.

  • 長瀬 有紀
    原稿種別: 書評
    2018 年 67 巻 3 号 p. 330-331
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/10/26
    ジャーナル オープンアクセス
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