精神医学領域は,他科と比較し,バイオマーカーに依拠する診断が困難であることが精神医学の大きな特徴である.そもそも,精神医学において,病理と正常の境界を明確には規定することは難しく,疾患単位を規定する客観的な根拠もない.言い換えれば,どのような状態になったら病気とみなすのか,あるいはこの病気があの病気とどのように異なるのかが,人の手によって規定されるということである.閾値や疾患単位がそのように規定されるので,診断という行為に用いる基準も操作的にならざるをえない.自明の診断基準というものは存在せず,知識と経験に基づき,その時代その時代に,最善と思われる診断基準を設定し,診断にあたる臨床家もそれを参照するしかない.そのような背景から,精神医学において診断の分類体系と基準がもつ意義と重みは,他科のそれと異なる.本稿では,近年よく認知されてきているADHDや我が国では長くひとつの臨床像として認められてきた自己臭恐怖,新設提唱を機によくメディアで取り上げられるゲーム症などを取り上げながら,精神科領域において診断分類を改訂するという取り組みの独特さや難しさ,そして意義について述べる.